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ジュダルの視線が騎士へと注がれる。

「知り合いなのか?」

シンドバッドの問いにジュダルは答えない。確認するように再び体内の魔力を見るジュダルの視界には、やはり見たことのない異物が映った。こんな「モノ」を過去に見たことがあれば、覚えている筈だ。

「なあ。顔、見せろよ」
「……」
「お前もだんまりかよ。……じゃあいいぜ。―――力づくだ!!」

再び杖を振り上げたジュダルが今度こそ攻撃を放った。たて続けに繰り出される攻撃から背後にいる三人を庇うように、ハルはその場を動こうとしない。

「ハルさん!」

アラジンが手を伸ばすも、二人の衝突によって発生した強い風で体制を崩す。倒れかけた体をアリババが支え、眼前で剣を構えるハルの背を見つめる。

ジュダルの魔法を剣でなぎ払うたびに、空気に赤い閃光が走る。シンドバッドの眷属という可能性は消えた。主が金属器を持っていなければ眷属も力を発揮することはできない。ジュダルは(やっぱり金属器使いじゃねぇか)と内心で呟いた。続けて、何故先ほど気付くことが出来なかったのかと首を傾げる。魔法で上手く隠しているとして、そんなことが出来る魔道士は限られるだろう。

―――考えられるとしたら、俺以外のマギ。なにより鎧の中身が、本当に俺の知っている人物であるならば、自ずとひとりに絞られるだろう。

レーム帝国、最高司祭、シェヘラザード。
世界最大の版図を築いた帝国を支える伝説のマギ。

違和感の正体も、レームのババァがコイツの体に何かを施したのだとすれば、あるいは―――

その剣の構えも、淡い草色の瞳も、隙間から見える金糸にも、見覚えがある。
間違えるはずがない。

「……飽きた」

唐突に杖を下ろしたジュダルを確認して、ハルは同じように剣先を下ろした。

「会うのは四年振りか? ハル。聞いてた話より元気そうじゃん。こんなところでなにしてんだ?」
「…………ジュダル」

鎧の下から聞こえてきた声はやはり聞き覚えのあるものだった。ジュダルは聞きたくて仕方のない疑問を大量に抱えながら、それを振り払うように杖をいじる。

「ハルさん、その人と知り合いなの?」
「……はい。互いに、隠し事が多くあったようですが」
「……あ? そういえば煌帝国の人間って言ってなかったな……。ま、どうでもいいだろ。そんなこと」

ハルの背後から顔を見せたアラジンに、ジュダルの視線が突き刺さる。その刺々しさが先ほどよりも増しているように感じ、アリババは身震いした。

「それで? チビは王の候補としてハルを選んだのか? で、ハルはそのチビを選んだと」
「違う。彼は私のマギではない」

即座に否定の言葉を口にしたハルに、ジュダルはしばらく閉口して考えているようだった。赤い瞳をハルへ向け、数秒してから「……だろうな」と小さく呟く。

「お前の性格はよく知ってる。マギを乗り換えるような女じゃねぇ」

―――余計なことを、とハルは口を挟みたくなるのを堪えた。この場で唯一、ハルの素性を知る人物。このまま好き勝手喋らせるのは都合が悪い、と剣を握り直したハルを見て、ジュダルは空いた手を振りながら「お前と戦う気ねぇから、引っ込んでろよ」と言った。鬱陶しそうに顔を歪めるジュダルにつられ、ハルも兜の下で表情を変える。

「引っ込むのはあなたです。不意をついて攻撃するなんて卑怯極まりない。アラジンもアリババも、武器を構えていなかったというのに」
「俺が興味あるのは後ろのチビでお前じゃねぇの」
「アラジンに戦意はありません。それ以上近付かないでください」
「……あ〜〜! うぜぇ!!」

わしゃわしゃと頭をかき混ぜたジュダルに、大人しく見守っていた周囲の人間がびくりと体を揺らす。

「そういや、お前とは本気で殺し合ったこと無かったな」
「!」

血のように冷え切った赤い瞳がハルに突き刺さる。
ぴくりと指を動かしたハルが剣を握る手に力を込めた。

「―――騎士の十戒、だったか」
「……?」
「優れた戦闘能力、愛国心……あとは、なんだっけ…………あー、思い出した」

杖を真っ直ぐハルへと向けたジュダルが口元を歪める。攻撃に備えるハルの予想に反し、ジュダルは腕を正面から横へと動かした。

杖の先には霧の団の団員たちがいる。

「―――弱者の保護、だろ?」