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ジュダルが体制を立て直すよりも先に、飛びついたウーゴの拳が襲いかかる。かろうじて崩壊を免れているような状態に、初めてジュダルの中に焦りという感情が湧いた。繰り返される攻撃によって、小さな傷が体に刻まれていく。流れてきた鼻血を雑に拭い、今にも飛びかかってきそうな「ジン」を睨みつける。

アラジンからの魔力供給が絶たれてもなお、活動できている理由は一つ。
ウーゴにはアラジン以外の人間から魔力を注がれているからだ。

「その“ジン”はお前の“ジン”じゃない!!」

ジュダルの叫びにアラジンが呆然と立ち尽くす。これまで一度も無かったウーゴの暴走に何も出来ずに固まるアラジンに、ジュダルの攻撃が向けられた。

ハルやアリババ、モルジアナが状況把握のために頭を働かせる。ウーゴが理性を失い暴走したわけではない。攻撃する対象となっているのはジュダルのみで、ウーゴの行動には一貫性があるように見えた。
あの行動は全て、アラジンを守るためのものだ。

霧が視界を塞ぎ、晴れた時にはウーゴの目前に巨大な氷の槍が迫っていた。確実に倒すためにジュダルが出現させた氷が、ウーゴの胸に深く突き刺さる。背後にいたアラジンにも、ウーゴの体を貫いた氷の先端が見えた。アラジンの身に、同じように自分の体を貫かれたような衝撃が走る。勝ちを確信したジュダルが不敵な笑みを浮かべ、ハッと気付いたように顔を強ばらせた。

攻撃を受けてぶらりと下がっていたウーゴの腕が持ち上がり、目の前にいたジュダルを鷲掴みにした。

「!!」

防御魔法が発動するも、両側から強く押し込まれ続け、硝子が割れたような絶望の音を、ジュダルの耳が拾う。

小さな果実を潰すように、ウーゴの手の中でぐしゃりと骨や肉が潰れる音が広場に響き渡る。身を竦ませるような恐ろしい音に、どこからか小さな悲鳴があがった。

誰もその場から動けず、地面に落ちるジュダルの姿をただ見ていることしか出来なかった。


ハルがいる距離からでは、ジュダルの生死の判別がつかない。

―――息があったとして、ジュダルは全身の骨を砕かれている。彼はもう戦えない。ウーゴの戦意は消えただろうか。ハルはひとり困惑を極めていたが、シンドバッドの「全員逃げろ!」という叫びで強制的に思考を現実へと戻された。視線の先でウーゴは両手を掲げ、魔法を繰り出す準備をしている。その矛先は力なく倒れているジュダルだ。第7迷宮で目撃した熱魔法でジュダルにトドメを差すつもりなのだと、すぐ理解した。

―――生きてる。まだ、ジュダルは生きている。

アラジンがウーゴの名を叫ぶ。それでも、ウーゴが魔法の発動を停止させる気配はない。

ハルの頭の中にたくさんの情報と自問自答が行き交う。

ハルが金属器を得た経緯。第5迷宮で過ごした短い時間。
騎士として生きてきたこの数年と、「世界の異変」によって失った多くのもの。
その背景に居る謎の魔道士たち。
バルバッドの内乱。政治に介入している煌帝国。
マギ。ジュダル。

―――ジュダルとの出会いも、全て仕組まれていたことだったのではないか。……私は何を、信じたら―――。

「ここを出たら」

唐突に、今より少しだけ幼い、彼の声が聞こえた。

噂に聞いていた迷宮攻略。身動きの取りづらい格好で、料理用の刃物だけを投げ渡され迷宮に放り込まれたのはもう何年も前のことだ。美しい衣装を泥で汚してへとへとになる私を指差して、ジュダルはお腹を抱えて笑っていた。そっちのほうが似合ってるぜ、と。楽しげに笑う彼に腹が立って、私は迷宮生物をひっつかんで投げ渡した。途端に悲鳴をあげるジュダルに、暗い気持ちなんて吹き飛んで、気付けば私は笑っていた。それから、

「ここを出たら、俺と来るか?」




剣を握り直し、強く地面を蹴って踏み込む。
鎧に押し潰される骨が軋んで音を立てたが無視した。

「ハルさん!?」

強力な魔法の発動に伴う大きな音の中、アラジンの悲壮な声が微かに聞こえる。―――ごめんなさい、アラジン。ジュダルは、あなたとその友人を傷付けた。関係の無い人々に武器を向けた。決して許されることではない。

だとしても、見殺しには出来ないのです。

「至誠と破壊の精霊よ。汝と汝の眷属に命ず」
「!」
「我が魔力を糧として、我が意志に大いなる力を与えよ」

ハルの周辺に発生した赤雷がレームの宝剣に収束していく。ウーゴの魔法がジュダルの頭上へと振り下ろされる。その間に飛び込んだハルの剣が赤く輝き、熱魔法と剣身が衝突するのを最後に、あたりは衝撃波によって吹き飛ばされた。