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空を飛ぶ絨毯から足を踏み出したというのに、少女の体は地に落ちてくることはない。空中に現れた水が巻き上がり、少女の周囲に渦巻く。両腕に熱魔法を溜めたウーゴが飛び上がり、大きな手で水竜ごと少女を鷲掴みにした。高温によって水分が蒸発する音と共に、熱気が少女を襲う。

焦りから激昂へと感情を変えた少女の咆哮と共に、少女の金属器に水が集まっていく。ただのかんざしだったそれは瞬く間に大剣へと姿を変えた。

その剣を掴む少女の両の手は人の肌ではなく、魚の鱗や鰭のようなものに覆われている。

「な……なんだあれ……!?」

アリババの叫ぶ声があたりに響いた。重力によって地面に降りていたウーゴが再び攻撃を繰り出すよりも早く、煌帝国の少女は動いていた。勢いをつけた回転と共に、異形の剣が一直線にウーゴの胴体を刺し穿つ。

「ウーゴくん!!」

ウーゴの体は金属器の笛に吸い込まれ、軽い音を出して地を転がる。

少女は誇らしげに従者の名を呼び、絨毯へと戻ると空へ浮上していった。すでに興味を失い向けた背後から迫る攻撃に、従者が肩を抱くように少女を庇う。驚愕で見開かれた少女の目に映ったのは、小さな布を飛ばし迫ってくる少年の姿。

アラジンにじっとりとした視線を向け、少女が口を開いた。自分は化物に襲われていた身内を助けたに過ぎない。思わず強い否定の言葉がアラジンの口から飛び出す。

「ウーゴくんは、みんなを、僕を守るために戦っただけなんだ! 先に手を出してきたのはその人だ!!」

地上に残った人間は二人を見ていることしか出来ない。アラジンを追って一歩踏み出したままの体制で、アリババは動きを止めていた。

アラジンの言葉に少女はアラジンを強く睨みつける。流れるように、下に蠢く小さな人の集まりにも、鋭い視線が突き刺さった。
強い敵意が降り注ぐ。

「あなたがあの化け物の主なのね? じゃあ、下にいるそいつらも……あの化け物の仲間なのね……?」

右手を小さく掲げた少女の言葉で絨毯の上から三つの影が飛び降りる。アラジンを無視して影が降り立ったのは、霧の団の団員たちが集まる広場。

人よりも遥かに大きな体躯の生物に、全員が顔を青く染めて上を見上げる。

「この子は私が片付けるわぁ。そのゴミたちは三人で……皆殺しよ!!」

恐怖で逃げ出すよりも先に、象のような生物が三叉に分かれた長い鼻を振り回し、団員たちを投げ飛ばしていく。宙に浮かされた男たちが容赦なく地面に叩きつけられる。

轟音を立てて人に向かっていく生物の前に、一際目立つ赤髪の男が立ちはだかった。

「止めろマスルール!! ……!?」

シンドバッドが驚きで息を呑む。最強の戦闘民族、ファナリス。ぶつかりあう二人の足元の地面を抉れ、双方の力量が同じであることを示していた。


この場にいるもう一人のファナリス。モルジアナも、目の前の生物に翻弄されていた。猿のような獣が鋭い爪を剥き出しに襲いかかってくる。多勢で攻撃をしかける生物の猛攻をさばききれずにいるモルジアナをフォローするように、ジャーファルが声をかけた。

「モルジアナ!! 数が多すぎる。協力してみんなを守るんだ!!」
「はいっ!!」

二人の正面に、相手をしていた猿よりも遥かに大きな影がかかった。肩に小さな猿を乗せたソレは、布越しにでも分かる敵意を二人へと向けている。


アリババは相対している敵の攻撃を一身に受けながら、部下たちを後ろへと下がらせた。一瞬の隙を突くような攻撃が繰り広げられ、その剣先がオレンジの瞳へと吸い込まれていく。体に染み付いた動きで攻撃を受け流したアリババに、男は感嘆したように息を吐いた。

「貴殿、なかなかの太刀筋だな……。手合わせ願おう……」

目の前の男の強さに強く歯を食いしばるアリババの視界の中で、月明かりに照らされた金糸が輝く。道を塞ぐ猿を切り伏せながらハルが一直線に駆けるその先には、煌帝国の姫と対峙するアラジンの姿があった。