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青磁色の宝石を握るアラジンは、今も眠り続けている。穏やかな寝顔にアリババは胸を撫で下ろす。そして、話しかけた。返事がないことは分かっている。
ただ、自分の友人に聞いて欲しかった。

バルバッド王国に、大変なことが起こっている。
サブマドはアリババに、この国を救ってほしいと言った。
確かに、誰かがこの国を立て直さなきゃいけない。なんとかしないといけない。

―――でも、

「それって、俺がすることなのかな?」

ハルは言った。アリババに、「王になれ」と。

―――あれは強制ではなかったのだろう。
ただ、ハルの中ではあれが国を救う最善の手だと思ったから提案しただけだ。

アブマドを王に据えたままではいけない。
分かっている。

(それでも、俺に王は務まらない。)

先王を死なせる原因になった事件を招き、逃げ出した自分にはそんな権利はない。
経済を破綻させた兄と同じように、自分にも罪があるとアリババは思った。

アラジンは言っていた。アリババを「勇気ある人」だと。
その期待に応えられるような人間ではないと、なにより自分が分かっている。

「世の中にはさぁ、いるんだよ。本物の英雄が……」

頭に浮かぶのはシンドバッドの姿。
度胸も実力も人望も、自分は足元にも及ばない。

「それに、ハルも……」

ハルは、ジュダルの攻撃から何度もアリババを救った。アリババだけではない。元は敵対していた霧の団の団員たちでさえ身を挺して庇った。そこに躊躇う様子は無かった。

「きっと、ああいう奴が大事を成せるんだろうな」

金属器使いであることは昨夜まで知らなかった。再会した夜に見た不思議な技は、カシムらが持つ魔法道具と似た武器なのだろうと思っていた。だが、今思えば、第7迷宮でいつの間にか増えていた青い巨人の正体はハルの金属器に宿るジンだったのだろう。

「そうだよな……アラジン」

窓から降り注ぐ日差しによって室内が照らされる。
アラジンが起きる様子はなかった。



廃灯台のある一室。シンドバッド、ジャーファル、マスルールが揃ったその部屋では、今まさに作戦を立て直すための話し合いが行われていた。予想以上に煌帝国が深くバルバッドの内情に潜り込んでいる。同盟国と掛け合ったところで無駄足になる可能性さえあった。

仮に一時は凌げたとしても根本的な解決にはならない。
バルバッドを真に思う人間の手でこの国を生まれ変わらせる。
そうでなくては救えない。

「それは、現王政を打破するということですか?」

―――例えば、アリババくんを王にするとか。

ジャーファルの言葉に、シンドバッドは返した。今の彼には期待できない、と。
アリババには実力も自信も足りていない。

「一体なぜ、アラジンは彼を選んだのか……」

―――霧の団によって国が荒れている。その影響で苦しむ人がいるのであれば、見過ごすことなどできません。たとえ私には関係のない、遠い異国の民であっても同じこと。

先日耳にしたハルの言葉をふいに思い出した。「マギ」であるアラジンと行動を共にしていた二人の金属器使い。ハルはアラジンを自分の「マギ」ではないと言っていたが……。

ハルに備わった実力や自信がアリババにもあったら。そう考えながら酒をあおったシンドバッドに、ジャーファルが苦言を呈する。その直後部屋の入り口からダンッ、と大きな音が聞こえ、シンドバッドは慌てて振り返った。そこにはモルジアナがむすっとした顔で立っている。彼女の左足の下、床は亀裂が入っていた。
先ほどの音はモルジアナが床を踏み抜いたものだった。

「ケガをした人たちの手当が一段落しました」
「そうか……分かった。君も休みなさい」

モルジアナはジュダルとその背後にいる者たちのことを問いかけた。しばらく考えてからシンドバッドが後で話すと答える。ひとまず休息を取るように言ったシンドバッドに対して、モルジアナは素直に頷いた。
背中を向け、部屋を出る前にゆっくりと口を開く。
アリババのことを話していたシンドバッドらの会話を、モルジアナは聞いていた。

「確かに彼は……自信がなく見えるところがあるかもしれません。でも、かつて奴隷だった私を救ってくださったのは、他でもない彼でした」
「……」
「だから、私は思うのです」

振り向いたモルジアナの表情に、シンドバッドが目を見開く。

「―――この国を救うのも、あの人だって!」

眉を歪め、口を結び、強く訴え掛けるようなモルジアナの眼差しにシンドバッドは口を閉じる。部屋を出て行くその背を見送り、反省するように頭を掻いた。