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少女が穴に落ちそうになったとき、アリババが伸ばした手はあと少しで届きそうだった。けれどその手は空を切り、残酷にも少女は砂漠ヒヤシンスへと捕らわれた。
―――誰か、助けろよ。
アリババが胸中で呟く。それと同時に穴の反対側から坂を滑り落ちていくハルの姿を見た。それに胸を撫で下ろす。あれだけ強い奴なら大丈夫だ、きっと。自分に言い聞かせて酒へと手を伸ばす。だけどどうしても気になってしまって、アリババは穴の中を覗き込んだ。
騎士は剣を抜いて自分に向かってくる触手を切り伏せていく。触手は怯んでいるようにも見えるが、逆に勢いを増しているようにも見える。ハルは砂漠ヒヤシンスの消化液に躊躇なく飛び込んで、かろうじて上へ伸ばしていた少女の細い手を掴んだ。ぐんっと持ち上げられた少女が消化液から抜け出して咳き込んでいる。
左腕で少女を抱えたハルが砂漠ヒヤシンスの口の外へ出ようとした時、広がっていた花弁がぴたりと閉じた。獲物を逃がさないように砂漠ヒヤシンスが取る行動だ。内側から開く手段は二人には無い。あるとしたら―――。
アリババは手元の酒を見る。これがあれば花弁を開いてあの二人を助けられる。けどこれはブーデルの商品で、手を出したら無事じゃいられない。
「ホレホレ酒を運べ!!」
ブーデルがアリババの背を叩く。アリババは今にも消えてしまいそうな命を見ていた。
中でハルが剣を振っているのが分かる。内側は粘液で包まれていて剣撃は通用しない。多分、あの騎士はそれを今知った。砂漠ヒヤシンスの生体も弱点も、知らずにアイツは飛び込んだんだ。あの子供を助けるために。
触手がハルの胴体や首に巻きついて、強引に消化液の中へと引きずり込まれるのが見えた。一緒に少女も水中へと姿を消す。母親の悲痛の叫びが辺りに響いて、アリババの脳をがんがんと揺らしていた。
「ハルおにいさん!!」
―――あの鎧を着ていたら長くは持たないだろう。あの子供だって死んじまう。
誰か
誰か―――
「あー……泣くな女よ。貴様も喚くな。あの子供と傭兵の代金なら、ワシがいくらでも払ってやるから」
―――誰かじゃねえよ!!
思い切り振り抜いたアリババの拳は、ブーデルの頬にめりこんでその巨体を吹き飛ばした。怒りを顕にアリババはずきずきと痛む拳を力強く握って叫ぶ。
「てめぇの汚ぇ酒で!! 人の命が買えてたまるか!! バカ野郎!!」