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ジンの訓練を終えたシンドバッドがジャーファルとマスルールを部屋へ集めた。アリババの訓練の様子や、彼を王にするためにシンドバッドが出来ること。煌帝国の姫に話をつけにいくと言った後に、切り替えるようにシンドバッドは二人の顔を見上げる。

「二人は、武器化魔装したハルの剣を見たか?」

シンドバッドの質問にジャーファルとマスルールは顔を見合わせて否定した。ジャーファル、マスルールは共に霧の団の団員の避難に尽力していた。霧が晴れ、ハルの姿を確認するより先に煌帝国の姫たちが現れた為、ハルの魔装した剣を見てはいなかった。

「ハルの剣が、何か?」

首をかしげたジャーファルに、シンドバッドは少し前に聞かされたハルの金属器の能力を語った。みるみるうちに険しくなるジャーファルの表情にシンドバッドは小さく息を吐く。

「だが金属器の主はハルだ。俺は、そこまで危険視する必要はないと思っている」
「……」
「―――西方の騎士がどういうものか、よく知っているしな」



訓練が終わり、去っていくシンドバッドの背をハルが見送る。地べたに座り込んだ状態のアリババの腕を引いて肩を貸すと、少し離れた瓦礫の上へと座らせた。

「ありがとな」
「いえ、お役に立てずすみません」

アラジンに使った魔力回復の宝石。あれは時間をかけて魔力を貯める必要があるものだった。アラジンに使用した為しばらくは使えない。ハルが所持しているのはひとつだけであり、アリババの訓練に使用することはできなかった。

「そんなことねえよ」

アリババは即座に否定の言葉を口にした。たて続けに言う。
「前から思ってた。お前は、本当に凄い奴だよ」
初めて会ったときから何度も思ってきたことを、アリババは初めて本人に告げた。

剣を狙う盗賊を一人で倒したこと。
砂漠で穴に沈みゆく荷車を引き上げ、躊躇うことなく少女を助けに行ったこと。

第7迷宮で、ハルはアラジンやアリババを何度も救った。
バルバッドで再会したときはたったの一人で霧の団の相手をして屋敷を守り抜いた。

ジュダルの攻撃に晒されたアラジンやアリババを守った。
一度は敵対した霧の団の団員を、ジュダルの攻撃から庇った。

あの日ジュダルが言っていた「騎士の十戒」。
その存在を、アリババはかつて本で読んだことがあった。西方に存在する特別な戦士たち。彼らは騎士道に従って生きている。

優れた戦闘能力を持ち、高潔さを誇る。
そして、その力で弱者を守るという。


「ハルが俺を何度も助けてくれたのは、俺が弱いからだよな」


ハルは何も答えない。下を向いているアリババに見えるのはハルの足元だけだ。

「俺は、ずっと周りに頼ってばっかで」
「そんなことはありません」

うなだれたアリババの頭に、ハルが語りかける。
しばらく聞いていなかった、毅然としたハルの声だ。

「あなたは砂漠で私達を救ってくれました。恐怖に屈せず、立ち向かえることのできる人間は少ない。あなたは勇気ある人です」

俯いたままのアリババの正面に、ハルが膝をつく。

「昨夜ジュダルの攻撃からあなたを庇ったのは、私が、彼の相手をするのが最善だと判断したからです」
「……」
「あなたを弱いと思ったことは一度もありません」

いつの間にか膝の上で固く握られていた拳に、ハルはそっと包むように手を重ねた。ゆっくりとアリババが顔を持ち上げる。

温かい自然の色。青磁色の瞳がまっすぐにアリババへ向けられている。アリババはそこにアラジンの姿を重ねていた。迷宮を攻略したあとの空間で、ジュダルに嘲笑されたあの夜も。自分を肯定してくれた小さなその背を思い出す。
アラジンは今も眠り続けていた。

残り限られた時間。シンドバッドが呼び寄せた援軍が辿り着くまで、待ってはいられない。