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王宮の城門を取り巻くようにバルバッドの民衆が集まっていく。彼らは門兵に攻撃するでもなく、ただ祈るようにそこに立っていた。アリババが言った「国を変えるから待っていろ」という言葉を、民衆は信じていた。

アリババが王宮へ乗り込んだという情報がシンドバッドへ伝わる。王宮へ向かう判断をしたシンドバッド。そして、同じ廃灯台の一室で眠るアラジンの様子に変化が起こる。ルフのざわめき。淡い光に包まれてもなお、アラジンの目が覚めることはなかった。

王宮の入り口付近で戦っていたモルジアナの決着がつく。ボス猿やほとんどの猿を倒し、残りは戦意を喪失したものばかり。モルジアナはカスリ傷を負った顔を王宮へと向ける。


かん、と男の持つ剣先が地に落ちる。体力が尽き、負傷によって上がらなくなった腕を持ち上げる事も適わない。男はゆっくりと顔を持ち上げる。剣を振り下ろそうと腕を掲げるハルの顔は、逆光によって見えない。直後、男の意識は途切れた。転がり落ちる首、崩れる体を一瞥し、ハルは顔を王宮へと向ける。


騒ぎを聞きつけた煌帝国の皇女が、玉座の間へとやってくる。
アリババが紅玉を真っ直ぐに見据えている頃、バルバッドの空には二本の白い光の柱が浮かび上がっていた。一本はバルバッド城内の離宮、もう一本は廃灯台のアジトから。
視認できるほどのルフの光。人が近付けない程のルフのざわめきにジャーファルが目を剥く。何が起こっているのか、それが分かるものはその場には存在しなかった。

アリババの口から示されたバルバッド王政の終わり。
新しい王は立てない。
バルバッドは共和制市民国家へと生まれ変わる。

それが、アリババが考えた、一滴の血も流さずにこの国を救う方法だった。

アラジンを包んでいた大きな白い光。
ルフの固まりは大きな鳥の形を成して空高く飛んでいった。
周囲の人間はその光をただ見送ることしかできない。ハッと顔を下げたジャーファルが、アラジンの名を呼ぶ。体を揺すってもその目が開かれることはなく、アラジンの小さな手から青磁色の宝石がこぼれ落ちた。




王宮の前に集った国民達に向け、アリババ、サブマドは宣言した。アブマドの退位、王政の廃止。
そして、共和制バルバッドの誕生を。
今後の国の政治のありかたのすべてを。

戸惑う民衆のどよめきに、兵士たちが表情を翳らせる。玉座の間で銀行屋が語った言葉が嫌に頭に残っていた。

―――そう上手くいきますかね?
―――群衆も結局は、支配を必要とするのです。

「突然のことで戸惑うかもしれない。共和制とは、自分たちで自分を治めるということ……しかし、そんなことはもう、ここにいるみんながやっていることだと俺は思う」

アリババの言葉に民衆が首を傾げる。王宮を見上げ、そこに立つ王子の姿を見つめた。

「この傾いた国の中で、重税、貧困、圧力、様々なものと戦いながら、自分と家族という小さな領地を今日まで守り抜き、収めてきた人たち。それが、ここにいるあなたたちではないのか」

そして、その苦渋を強いてきた王族・貴族は、もういない。

「ここは世界の中にあって……戦乱、混乱、異変、様々なものがこれからもふりかかるだろうけど……」

―――君は大変なことを考えすぎて、頭がゴチャゴチャになっているんだ。確かにこの国の問題は僕らにはとても難しい……でも、大丈夫だよ。

―――僕たちも君と一緒に考えるから!

「その度どうすればいいか、考えよう」

答えを出すのが難しい時にでも、自分が家族と幸せに暮らす方法を、考えて選び取る。

―――勇気を持って。

「全員で足を踏み締めて、この地で生きていこう! それが新しい、バルバッドの姿だ!」

目に希望を灯らせ、民衆が表情を輝かせた。
不安はある。それでも、それ以上の未来への期待があった。確かめるように、バルバッド共和国、と誰かが呟く。それが伝播していったように、民衆が笑みを浮かべ歓声を上げる。波のように大きくなった音が降りかかり、アリババはこの景色を目に焼き付けるように口の端を結んだ。

もう、ここから逃げたりしない。

迷宮攻略の帰路に交わしたアラジンとの会話。

共に、冒険をするという夢。
ハルの剣を探すという約束。

―――ちょっと、先延ばしになっちまうけどさ、待っててくれよ。

自分の役目をしっかりとやり遂げて、アラジンやハルが言ってくれた言葉に負けないぐらいの、「勇気ある人」になりたいんだ。

王宮を取り囲む民衆がバルバッドと叫び未来への希望を謳う。
その輝きへ向かってある一団が突き進む。
武器を携え、憎悪を内に燃やし続ける者たち。

一人も死なせずに国を救う。その答えをアリババは示した。
だが、この革命は未だ終わってはいない。