3


大きな白い鳥のようなルフの集合体。バルバッドの街からやってきた光の固まりがアラジンの元へと降り立つ。アラジンの中心にして光りは渦を巻いた。

アラジンの額に光が浮かび上がる。
それは八芒星を描き、輝きを見せた。

周囲から光が集まり、それは人のような形を成して霧散していく。戸惑いを隠せないアリババが訪ねると、アラジンは薄い笑みを浮かべて答えた。

―――みんな・・・に来てもらったのさ。
君と、君の友達を導くために。

「アリババくん、あれは君の大切な友達だろう?」

アラジンが杖を向けた先には魔人が飛んでいる。ハルの攻撃によって焼き切れた翼は既に再生を終えていた。

「彼は今、すべてを闇に取り込まれている。助けてやることは、君にしかできないんだ。君の剣で彼をつらぬいて、闇をうち晴らしておくれよ!」
「そうしたいけど……もう剣は……」
「大丈夫! アモンの剣は蘇るさ! 僕らが力を合わせればね!」

再び熱魔法を展開したアラジンは、その攻撃をジュダルと魔人ではなく、アリババへと向けた。ルフに語りかけ、熱魔法は炎へと姿を変えてアリババを包み込む。

アラジンはこの熱魔法しか使えなかった。
そして、アリババの剣は炎の剣。

「これもきっと、偶然じゃないよね!」

炎が収束していき、折れた筈のアモンの剣が再び蘇る。
アラジンの言葉に背を押され、アリババが駆け出す。道を阻むようにジュダルが氷の槍を放つ。アリババは怯むことも、足を止めることもなかった。

―――ハルが来ると、分かっていたから。

地面を蹴ったハルがジュダルの攻撃を防ぎ、アリババの道を切り開く。
開けたその先、魔人の腹へとアモンの剣を突き立てる。剣先へ魔力を集め、力を込める。黒いルフがアリババを包み、その体は魔人の体内へと取り込まれていった。

ジュダルと対峙していたハルがその光景に目を見開く。
魔人に取り込まれたアリババを嘲笑うジュダルに、アラジンが顔を向ける。

「君にも伝えたいことがある」

額の八芒星が一際輝き、ジュダルの脳内にある記憶が濁流のように流れ込んだ。穏やかな山村が血に染まっている。涙を流し自分を見下ろす二人の男女。その額を貫く魔法の攻撃。自分へと手を伸ばす、見覚えのある装束を着た男たち。

「……やめろ……」
「―――ジュダル?」
「やめろ!!!」

頭を抱えて真っ逆さまに地面へ落ちてくるジュダルの姿を、ハルは見ていることしか出来なかった。

「くそっ! てめぇ……俺に何をした!!」

蹲り苦しそうに呻き声をあげるジュダルを、ハルはただ見つめている。



魔人の体内に取り込まれたアリババのまえには、カシムが立っていた。

―――それは、彼のルフが彼を形どったものさ。

アラジンの声がアリババの頭に響く。

―――この場は僕とハルさんが時間を稼ぐ。
だから早く、君が彼を闇から救い出しておくれ!

その声を最後にアラジンの声は聞こえなくなった。
アリババはカシムへと歩み寄る。名を呼んでも返事はなく、その正面へと立った。
話がしたいと言うアリババをカシムは拒絶する。腕を掴んだアリババの手を振り払い、言った。

「俺はお前が大嫌いなんだよ!!」

憎悪を煮え滾らせたような表情にアリババが肩を跳ね上げる。

「今だからじゃねえぞ……ガキの頃から……ずっとだ!!」

カシムの姿はぐにゃりと歪み、スラムで共に暮らしていた頃の子供の姿へと変わった。

飛び交う黒いルフにカシムの記憶が映し出される。

アリババが王の子供だと知らされたあの時も、
数年振りに再会し、国庫を襲ったあの時も、
国民を扇動して戦争を起こすと伝えたあの時も!

「……俺は、お前を絶望の底に落としたかった!! でも、何をしてもお前は光を失わなかった!」

頭をかきむしるようにカシムが叫ぶ。「そんなに違うのか?! 俺だけが闇にまみれてる」黒いルフに包まれ、その姿は魔人へと成り果てたカシムの姿へと変わっていた。

「俺だけが……生まれ付きのクズだってのか!?」
「カシム……」

血の気の失せた表情で、アリババは力無く友人の名を呼ぶ。

アラジンが使用した力はルフの意志を聞かせる力。
すなわち預言の力。
アリババが聞いているのはカシムのルフの声。
ルフの声には偽りがない。

―――だからこそ、君を深く傷付けるかもしれない。

それでも、アラジンには確信があった。アリババになら、できるはずだと。

―――君は、すべてをかけて誰かを必ず救おうとする。勇気ある人……。

―――僕の選んだ……王の器なのだから!