10


食べ方はこんのすけに聞いたのだろう、国広が少しぎこちない手つきでうどんの数本を箸で持ち上げる。長谷部や前田達もそれを真似して食べ始めた。口に合わなかったらどうしようと抱いていた不安は、うどんを口に入れた途端に表情が明るくなった国広を見て吹き飛ぶ。

「美味しい?」
「……ああ、うまい」

そう言ってどんどん食べ進める国広達に、ほっと胸をなでおろす。天ぷらやほかの料理も気に入ったようでみんな幸せそうに食べ進めている。私もさつまいもの天ぷらを口に運び一口かじる。うん、美味しい。

ほっこりしながら食べ進めて数分、ふと国広の食べるスピードが尋常ではないことに気付く。

「うどん、おかわりあるけど……いる?」

箸を置いて聞いた私に、国広はこくんと頷きうどんが乗っていた大皿を差し出す。長谷部が「主になんて態度だ貴様!」と騒ぎ立てるが、愛染が「まあまあ」と抑えていた。私も大丈夫だよ、と笑って台所へ向かう。少し多めに作っておいて良かった。おなじように一人前を盛り直し広間へ運んでいく。今日一で嬉しそうな表情の国広を見て私も嬉しくなった。





食べ終わり、みんなで後片付けをしていく。長谷部と前田が手伝いを申し出てくれたので、私が食器を洗い、長谷部が水で洗い流す。最後に前田が拭いて食器を棚へと戻してくれた。三人も居れば食器洗いはすぐに終わり、エプロンを脱ぐ二人に向き直る。

「二人共ありがとう」

誇らしげに胸を張る長谷部と、照れくさそうに視線を下げる前田の頭を撫でた。さっきからずっと胸が暖かい。ふと、長谷部と前田の間に桜の花びらが見えた気がしたが、瞬きと同時に消えてしまった。帰還したときと同じだ。

これは一体なんなんだろう。後でこんのすけに聞いてみようと決意し、三人で広間へと戻る。残りの三人は長谷部と愛染の荷物を運んでくれていたのだけど、ちょうどそれも終わったらしい。

「それじゃあ、お風呂掃除してこよっか」
「お任せ下さい! 主!」

あんなに動き回って疲れないのだろうかと思うほど、長谷部は働き者だった。みんなで脱衣所とお風呂場を軽く掃除してお湯を溜めていく。

「こんのすけが言ってたけどさー、水に浸かるって大丈夫なのかよ」
「人の身とはいえ、少々心配ですね」

愛染が湯船を見下ろして言う。横にいる前田も不安そうだ。今剣はお風呂が楽しみなのか、わくわくを隠せないようだった。

「お風呂の入り方もこんのすけから聞いた?」
「ああ、口頭でだが」
「それじゃあ、ボディソープどれか分かる?」

国広はぼでぃそおぷ、と片言で呟き、すぐ傍にあったリンスの容器を持ち上げて渡してくる。大丈夫かこれ。

「あるじさま!」
「ん?」
「おふろ、いっしょにはいりましょう!」
「いいよー、今剣は私が教えながら入ろうか」
「やったー!」

抱きついてくる今剣を抱き返し、前田と愛染にも向き直る。「二人も一緒に入る?」と聞くと、前田は「お供します」と頭を下げ、愛染は顔を真っ赤にして「子供扱いすんなよ!」と怒り出した。なら、愛染は国広達と一緒がいいかな。

「少し大変だけど、お風呂から上がったら国広たちに教えてあげられる?」

今剣と前田に聞くと二人が勿論、と頷いてくれた。お礼を言い、浴室を後にする。ドライヤーやタオル等を用意しておいて、各々の部屋へと分かれていった。近侍の国広だけが隣に立っている。

「国広は部屋に行かなくていいの?」
「近侍だからな」
「ずっと一緒に居なくても大丈夫だよ」
「何かあっては困る」

布を引っ張って俯きがちで言う国広に、そっかと返事を返す。

「なら私も国広の部屋に行くからさ」
「……」
「整理とかしたいだろうし、それならいいでしょう?」

国広はしばらく私の目を見返し、「あんたがそういうなら」と呟いた。




湯気でけむる浴室に、今剣は興奮が隠せないようだった。
前田が微笑ましそうにそれを見守っている。
三人で並んで椅子に座り、シャワーや石鹸の説明をしていく。

「ここを捻るとシャワーからお湯が出てくるから」

頭からシャワーを被り髪を濡らす私を、今剣と前田がじーっと見てくる。そんなに見られると緊張する。

「こんのすけも言ってたでしょ。錆びないから大丈夫。気持ちいよ」

私の言葉に意を決したように二人がお湯を浴びる。今剣が「きゃー!」と楽しげに笑うのにつられて笑ってしまった。前田が小さく「う〜」と声を漏らしている。

シャンプーを手で泡立て、頭を洗っていく。見よう見まねで同じことをする二人だったが、今剣は髪が長いからか大変そうだ。

「今剣、向こう向いて」
「? はい」

小さな背中を向けられ、体の方向を変える。泡だらけの頭にゆっくりと触れて優しく洗っていく。今剣は鏡越しにこちらを見て嬉しそうに笑声をこぼした。頭皮をマッサージするように洗っていき、声をかけてからお湯で流していく。

「ありがとうございます!」

満面の笑みで言う今剣に「どういいたしまして」と返して正面を向くと、前田と視線があった。慌てて目を逸らす前田を見て、ちらっと横を見る。俯きがちに頭を洗う前田に小さく「前田もやってほしいの?」と聞くと、少し照れたように顔を赤くさせた。
前田の方へ体を向けた途端、

「なら、ぼくがあるじさまをあらってあげます!」

立ち上がって言った今剣が私の背後に立って言った。前田の頭を洗いながら、今剣が私の頭を洗ってくれている。ちょうどいい力加減だと褒めれば今剣の誇らしげな「えっへん」という声が聞こえた。きっと今頃胸を張っているのだろう。微笑ましい。

それから体を洗って、湯船の前に移動した。私がゆっくり足を入れていく様を二人は心配そうに見守っている。

胸の上まで浸かった私が大丈夫だよーと声をかければ、意を決したように二人が湯船に浸かっていく。三人が浸かった分のお湯が溢れて流れていった。

「あたまがぼんやりします」

髪をまとめ上げた今剣が目を瞑りながら呟く。前田もこくこくと頷いた。

「あんまり長く浸かってるとのぼせちゃうから、気をつけてね」

二人ははーいと間延びした返事をして肩まで浸かった。それから少しして慣れたのか、今剣は湯船の中を動き回ってアヒルのおもちゃを追いかけ始める。あれ、いつの間に。

「可愛らしいですね」

手元まで流れてきたアヒルのおもちゃを持ち上げた前田が言う。柔らかく微笑む前田とおもちゃの組み合わせが可愛らしくて「そうだね」と返した。のぼせる前に湯船を出て体を軽く流し、脱衣所へと出る。体を拭いて服に着替え、洗面所の椅子に二人を座らせた。二人は首を傾げて鏡越しにこちらを見ている。

「先に前田の髪を乾かしちゃうねー」

ドライヤーの電源をつけて前田の髪に当てていく。前田は終始目を瞑っていた。もしかしたら音が怖かったのかもしれない。終わったあとに声をかけたときは一気に渇いた髪に感動していたので、ただ驚いていただけかも。

「次は今剣―」
「はーい!」

今剣の髪を乾かしていく。これがめちゃくちゃ大変だった。なにより長い。肌触りの良い髪に触れているのは気分が良かったけれど、凄く長い。少し時間をかけて乾かし終わり、二人に国広達を呼んでくるように頼んだ。少し疲れた腕を揉んでから、自分の髪を乾かしていく。ぱぱっと終わらせてから脱衣所に入ってきた国広達と入れ替わるように廊下へ出る。

「それじゃあ、説明よろしくね」
「はい、お任せ下さい」

前田と今剣に手を振って審神者の私室へと向かった。