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「あ、いたいた。こんのすけ」
「? どうしましたか、審神者様」
「ちょっと聞きたいことがあって」
私室に居たこんのすけに、夕食の片付けの時に見かけた桜の花びらのことを説明した。それを聞いたこんのすけは少し驚いたように目を皿のように丸めていた。
「それは、刀剣男士の状態が絶好調のときに見えることがあるんです」
「絶好調」
「その状態では刀剣男士は疲労を感じることがありません」
「へえ……」
だから長谷部があんなに動き回っていたのか、と納得する。思えば桜の花びらが見えたのはどちらも近くに長谷部が居たときだ。
「出陣で誉を取ると、疲労が減少し、桜が舞うことがあるんです。それが見える審神者は多くないんですよ!」
なぜかはしゃいでいるこんのすけに押され気味で頷く。でも、それが見えているからといって、みんなの役に立てそうにないんだけど……。
「そうだ、これを渡そうと部屋に居たんです」
「?」
そう言ってこんのすけが鼻で押すように持ってきたのは一冊の分厚い本だった。表紙には大きな字で「本丸通販」と書かれている。
「端末から注文できます。残高には充分気をつけてくださいね! あまり無駄遣いをしてはいけませんよ!」
まるでお母さんのようなことを言うこんのすけに「はーい」と笑って答える。
ぺらぺらとカタログを捲ると畑道具や食材等、幅広い商品が取り揃えられていた。これは、あとで国広達を見たほうがいいかもしれない。しばらくそれを見ているとお風呂から上がった愛染の声が廊下の奥から聞こえた。カタログを片手に部屋を出ると、ちょうど角から出てきた愛染と目があう。ちゃんと髪も乾かしてきたらしい。
「どうだった?」
「すっげー気持ちよかった! 風呂最高!」
上気した頬の愛染に笑い返し、その頬に触れた。これがたまご肌か……と感動しつつ、本丸通販のことを話した。
みんなで広間の机を囲いページを捲っていく。タオルや食器等、ある程度の生活必需品は支給されているから、それ以外のもの。みんなで意見を交わしながら全てのページを見終える。
最終的に畑に植える野菜の種と、料理のレシピが乗った本、初心者向けの畑作りというタイトルの本を購入した。最後に注文を押す前に、安い無地のノートを一冊追加した。
注文完了と書かれた画面には、明日の朝には届くということが書かれている。
前田と愛染がぼんやりとしていることに気付き、みんなで歯を磨くために洗面所へと向かった。愛染は今にでも寝てしまいそうなぐらい頭をぐらぐらとさせて、横にいる長谷部に頭をぶつけている。その長谷部もまぶたが重そうだ。
「寝るって、どんな感じなんだ?」
部屋へ戻る途中で愛染が尋ねる。難しい質問だ、と頭を悩ませながら説明する。暖かくて、ふわふわしてて……。
うまく言えない私が黙りこむと、不安そうな表情に変わった愛染が「一人で寝るの、ちょっと不安だな」と呟いた。となりに居た前田も頷いていたため、広間で一緒に眠ろうと提案する。ほっとしたように笑う二人に安心して布団を運ぶために私室へ戻った。
そういえば、明日の朝用のお米を炊いておかないと、と気付いて台所へ向かう。
ぱぱっとお米をといでタイマーをセットしてから部屋へ戻り、布団一式を抱えて広間へ向かうと、何故か国広や長谷部も布団を抱えて広間の前に居た。
布団を並べてはしゃぐ短刀を横目に大人三人が布団を抱えて対峙する。
……初めての睡眠となると、みんな不安なんだろうな。
納得させてから一番端へと布団を並べる。
「あるじさまはまんなかです!」
今剣に引っ張られ、布団が三枚並んだ真ん中に連れてこられる。その左右には今剣と愛染が居た。反対側には前田が布団を敷いており、その左右に国広と長谷部が布団を敷き始める。
こんのすけは政府と通信していたのか、少ししてから広間へとやってきた。しばらく話してから部屋の明かりを落とす。数分で国広と長谷部の方から寝息が聞こえ始めた。寝付き良いな二人共。
しばらくしてからそれに挟まれた前田と、横に居た愛染もすーすーと寝始めた。こんのすけは私の布団の隅っこで丸まって眠っている。それに安心して左を向くと、今剣がごろごろと寝返りを打っているのに気付いた。どうやら眠れないようだ。
「今剣」
みんなを起こさないように小さな声で名前を呼ぶと、今剣がおそるおそるこちらを向いた。
「おいで」
手を広げて言うと、今剣がゆっくりと腕の中に移動する。数少ない知識の中に、眠れないときは心音を聞くと眠れるという知恵があった。
あれ、これ赤ん坊相手だっけ。
抱きしめてから間違いに気付いたけれど、しばらく今剣の背を撫でていると穏やかな寝息が聞こえた。どうやら私の記憶は合っていたらしい。
それにほっと息を吐く。あの部屋で国広と初めて会ったのが、今朝のこととは思えない。
今日一日でたくさんのことがありすぎた。どっと疲れが押し寄せる。
そっと瞳を閉じると、眠りはすぐに訪れた。
ぼんやりとした意識がゆっくりと浮上していく。
遠くの方で私を呼ぶ声がして、強引に引っ張り上げられるように意識が覚醒した。
重いまぶたを持ち上げると、天井を背景にたくさんの顔がこちらを覗き込んでいた。
いや普通に怖いよ。
「よかった!! めがさめたんですね!」
上体を起こした私に、今剣がぎゅっとしがみつく。
前田が「安心しました」と胸を撫で下したのが見えた。
「全然起きねえから心配したぜ……」
ため息混じりで言った愛染に首を傾げる。
残りの二人の顔を伺うと、どちらも似たような不安そうな顔をしていた。
「……このまま目を覚まさないのかと思ったぞ」
「ごめん……」
潤んだ目をしている長谷部にも謝り、その肩に触れる。震えた声で無事で良かったと言う長谷部に口ごもる。
凄く深刻そうな顔をしているけれど、単に朝に弱いだけだと思うんだ。
なんなら今すぐにでも二度寝が出来る。
あとは昨日の疲れが原因だろう。まるでお通夜のような雰囲気に、「よし布団片付けてごはん食べよう」なんて言えなかった。
すでに起きて部屋を出ていたこんのすけが戻り、「主さま―!! 油揚げの準備を!!」と叫びだすまで、私は今剣の背を撫でていた。
時間が経ち、やっと落ち着きを取り戻したみんなと一緒に朝食の準備を進める。長谷部と国広、前田が台所に立って手伝い、今剣と愛染は昨夜注文した荷物を家の中に運んでくれている。メニューはどうしようか。白米に合うおかず。味噌汁は外せないよなあ。
ネギを切って欲しいと長谷部に頼むと、初めてとは思えないほど手際が良かった。刀だから刃物の取り扱いには長けているのだろうか。国広も前田も手先が器用で、予想以上に早く支度が終わった。とくに前田は料理が気に入ったらしい。
味噌の良い香りが鼻を抜ける。味見に協力してくれた愛染も大満足の出来だ。
広間の机へ運び終わり、食事の挨拶をして箸を伸ばす。
白米、豆腐の味噌汁、焼き魚、茄子とピーマンの炒め物。
ピーマンが苦手だった人用に卵焼きも作っておいた。
心配なのは今剣達短刀だ。……ピーマン、食べられるだろうか。
そっと隣の愛染を見ると、ちょうど野菜を口に運ぼうとしているところだった。やけに緊張して見守る。にがい、なんて言われたらどうしよう。ぱくっと口に入れてもぐもぐと動かす愛染。表情は明るいまま、飲み込んで言った。
「うまい!」
良かったあ、と胸を撫で下ろす。今剣と前田も確認したが、二人共美味しいと言って食べてくれた。食べる量に個人差があるのだから、好き嫌いもありそう。これから徐々に知っていこう。ほっと息をついて味噌汁を啜る。美味しい……。
「あ、そうだ」
思い出して口を開いた私に、全員の箸がぴたりと止まる。時間が止まったように動かない五人に、「魚の骨、気をつけてねって言うのを忘れてた」と呟く。
「骨?」
「そうそう。飲み込んだら痛いからね〜」
魚の真ん中に箸で切り目を入れ、身を崩して行く。五人がじいっと私の手元を観察していた。最初に説明してしまったほうがいいだろうと思い、崩した身を皿の端に寄せていく。
「半身が食べ終わったら、骨が外せるから」
半身が無くなった魚の尾の骨を折り、持ち上げて外していく。
愛染が「おおっ」と声をあげていた。なんだか解体ショーをしている気分だ。
「小さい骨があるかもしれないから、気をつけてね」
返事をしたみんなが自分の魚と向き合って箸を入れていく。まだ使い方に慣れていないからか、少し時間がかかっていたけれど、みんなのお皿に残った骨に身は残っていなかった。器用だなあ……。
ちなみに、前田は味噌汁と焼き魚が気に入ったらしい。また作ろうね、と笑って言うと今までで一番の笑顔を見せてくれた。
「道具も届いたことだし、今日はみんなで畑作りでもしようか」
はりきって言った私に、今剣と愛染が珍しく顔を歪める。
珍しい表情だ。
「ちょっとめんどうだなあ」
「畑仕事かー」
てっきり大騒ぎでやると思っていたのに、意外な反応だ。きょとんとした私の横で、長谷部が少し低い声で「主の命とあらば、畑仕事であろうとも……」と呟く。
こっちも意外な反応!
みんな畑仕事は嫌なんだな、と新しく知った一面に驚いていると、国広が立ち上がった。嫌がる三人をまとめてくれるのだろうか、と期待していると長谷部よりも低く暗い声が布の下から聞こえる。
「泥にまみれていれば、山姥切と比べるなんてできないだろ……」
ただ一人、前田はおろおろした様子でみんなを見ていた。そっと立ち上がり、自嘲気味に言った国広の背中をぽんと叩く。座ったままのみんなを見下ろして言った。
「みんな、畑、行こうか」
これ以上ないぐらい笑顔を作って言うと、長谷部が慌てたように今剣と愛染を引き連れて玄関へと向かった。国広を引っ張り、前田と共にあとを追う。
鍬や肥料を手に用意された畑に向かい、本の指示に従い土を掘り起こしていく。雑草を取り除き、小石を省く。愛染は虫に夢中になり作業どころではなく、長谷部がそれに怒り、今剣が掘った土が国広にかかり、きのこが生えそうなぐらい落ち込んだのを宥め
……うん。進まないわ、これ。
唯一真面目に取り込んでいた前田が「良い土です」ときらきらした目で言ったのを見て抱きしめたくなった。
……人には向き不向きがあるよね。