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本の通りに畑を耕し終え、残りの種まきをみんなにお願いしてから、一人で昼食の準備をしていた。豚汁を作り終えておにぎりを握っていく。大皿一杯に握り終えた頃、種まきを終えた刀達が戻ってきた。みんな同じように疲れた顔をしている。
「おわりましたあ……」
「疲れたー!!」
入口のところでぐでっと崩れる今剣と愛染に苦笑する。
「みんなありがとう。手を洗ってからお昼ご飯にしようか。お腹減ったでしょう?」
表情を変えて立ち上がった二人が流しに向かっていく。あとに続いた三人の背を見送り、大皿を広間の机へと運んだ。
「これ知ってる! 握り飯だろ!」
追いついてきた愛染がおにぎりを見て叫ぶ。俺食べてみたかったんだー!と屈託ない笑顔で言う愛染に、こちらも釣られて笑顔になる。喜んでもらえてなによりだ。
相変わらず国広の食事スピードには目を見張るものがあり、愛染と今剣はおにぎりを気に入ったらしい。長谷部は豚汁を二回おかわりしていたし、味付けが好みだったのかも。みんなの好物がだんだん分かってきた。忘れないうちにメモに残しておいたほうがいいかもしれない。
食事を終え、片付けが終わってから自由時間になった。こんのすけ曰く、出陣の指令が出なければ、鳥居の転送装置は作動しないらしい。
みんなは今、いつ指令が出てもいいように戦闘服に着替えているところだ。
私はというと、審神者の執務室でこんのすけと向かいあっていた。しっぽを振りながらお仕事モードで話すこんのすけの表情はキリッとしていて、食事中とは別狐のようだ。
こんのすけが言うには今日植えた野菜の種はどの種類でも一週間程で実り、収穫できるまで成長するらしい。一体どういうことなんだと疑問符を飛ばしまくる私に気付いていないのか、こんのすけは審神者としての仕事内容について説明を始めた。
刀が一瞬で出来上がる札があるくらいだし、野菜が一週間で実る畑もあってもおかしくないか。いや、おかしいんだけど。だんだん感覚が麻痺してきているのが自分でも分かる。
そもそも鳥居をくぐったら別の時代に行ける時点でおかしい。
内番の設定、戦闘の報告書、出陣で得た資材の記帳、日々の鍛刀や刀装の記録等、審神者の仕事を延々と言っていくこんのすけに頭痛がした。しかもこれが日課だというのだから、仕事を始める前に疲労感に包まれる。
着替え終わった国広が執務室にやってきたのと同時に、こんのすけがぴん、と尻尾を伸ばして遡行軍の出現を叫んだ。
「ほかのやつらを呼んでくる」
「分かった。刀装を持っていくから、鳥居で会おう」
国広と分かれ、刀装部屋へと急ぐ。人数分の刀装を抱えて鳥居にたどり着くと、戦闘服を着た全員が揃っていた。
「主、俺が運びます」
みんなの姿が視界に入った途端にものすごい勢いで駆け寄ってきた長谷部が、抱えていた刀装を受け取ってくれた。お礼を言ってみんなのところへ急ぐ。全員が刀装を装備して鳥居の奥へと消えていく。祭りだ、とはしゃぐ愛染や、姿が見えなくなるまで手を振っていた今剣の姿が見えなくなり、途端に静かになる。
しばらく鳥居を見つめてから、落ち着かない気持ちをどうにかしたくてその場から離れた。
「あー。川の下の子です。加州清光。扱いづらいけど、性能はいい感じってね」
「拾った」と、国広に手渡された赤い鞘の刀を顕現すると、現れたのは赤い瞳の男の子だった。少しつりあがった目を細め、猫のような笑みを浮かべる表情を見返す。
「可愛くしているから、大事にしてね」
その言葉にぽかん、としてから何度も頷いた。
かっちりと整えられた髪型や服装はどちらかといえば綺麗な印象を抱くけれど、いたずらっ子のような笑みを浮かべられると可愛い子だと思ってしまう。
頷く私に加州は嬉しそうに目を閉じて、へへ、と笑った。
「加州でいいかな。よろしくね」
「うん。よろしく、主」
資材を仕舞いに行った国広と長谷部を見送り、残りのみんなで本丸内の案内をした。向かう途中で自己紹介をしあう短刀と加州を連れ、最後に加州の部屋を決めようと空き部屋へ向かう。空いている刀剣部屋は残り二つだ。ほかのみんなとは少し離れた玄関に近い二部屋の中を覗いてから、加州が口を開く。
「主の部屋って、執務室の近くだよね?」
「? うん」
「遠いなー」
ちょっと拗ねたように言うその横顔を思わず見つめる。加州に限らずみんなに当てはまるけれど、審神者の近くの部屋になりたがるのは何故だろう。愛染や長谷部も部屋を決めるときに私の部屋の近い空き部屋から埋めていった。国広に理由聞いてみたがじっと見下ろされるだけで答えはなかった。
「なら、ぼくとあいべやでもいいですよ!」
考え込んでいた私の横で今剣が大声をあげる。加州は目を丸めてから破顔して口を開いた。
「いいの?」
「はい! あるじさまのとなりのへやです!」
花が咲いたように笑顔になる加州につられて笑みを浮かべると、傍で見守っていた前田と愛染も楽しそうに笑っていた。
さっそく打ち解けたようでなにより、と安心していると、こんのすけが廊下の奥から現れた。出陣命令、という単語を聞いた瞬間に体が強ばる癖は抜けそうにない。
それに気付いた前田が顔を覗き込んできたから、小さな頭を帽子の上から軽く撫でてやった。
「加州は顕現したばかりだから、一緒に待ってる?」
「えっ、平気平気。大丈夫だって!」
からっと笑って手を振った加州にほっとして刀装部屋へ向かう。国広と長谷部とも合流して、そのまま刀装を取りに向かった。
帰ってきたばかりですぐに出陣だなんて申し訳ない。
みんなは疲れている様子はないけど、大丈夫だろうか。
鳥居に消える直前、国広に「みんなのこと、よろしくね」と頼むと、国広はほんの少しだけ表情を和らげて頷いた。
みんなを見送り、そっと家の中に戻る。ただ待っているのももどかしくて考えていると、ふと洗濯をしていないことに気付いた。今日はいい天気だし、これから干せば日が沈む前には乾くだろう。すぐに脱衣所に急いで洗濯物を回収し、洗い場まで運ぶ。
洗濯物を干し終えた頃には加州の荷物が届いたので、今剣の部屋まで何回か往復して運んでおいた。その間もポケットに入れておいた端末を何度も確認してしまう。怪我人は居ないようで、その事実に何度も胸を撫で下ろすのだった。