13
広間で一人みんなの帰還を待っていると、端末が帰還の知らせを伝える。慌てて立ち上がり、鳥居へと向かう。端末には前田が軽傷を負ったと記載されていて、逸る気持ちを必死で抑えて走った。
「あー、戻り戻り。はあ……」
鳥居から出てきた加州が肩の力を抜いて鳥居から現れる。真正面に居た私に気付くと「えっ! 主居たの!?」と言って肩を跳ね上げた。
「おかえり、加州」
「た、ただいま……うわ、可愛くないとこ見られた……最悪……」
「??」
何故か赤くなった顔を抑えてしまった加州に首を傾げていると、鳥居から続々と帰還したみんなが現れる。
「戻ったぞ」
「お帰り。みんなお疲れ様、ありがとうね」
照れくさそうに笑う愛染の頭を撫でてから、その後ろに居た前田へと歩み寄る。その頬や足には切り傷が出来ていた。
「前田、手入れ部屋行こう」
「いえ、大した傷では……」
「カスリ傷でも、放置はダメ」
手を差し伸べると前田はゆっくりと小さな手を重ねた。国広に後をお願いして家の中へと入っていく。ここにやってきて二度目の手入れ部屋だ。小さな妖精は、私達が来るのを待っていたように戸を開いた。
国広が治療を受けたときのように準備を進め、前田の刀の手入れを始める妖精をじっと身守る。端末も連動して、前田が治療を受けていることと、その所要時間が記載された。
「主君、僕は平気ですから、行ってください。国広さんの報告もありますし」
「本当に大丈夫?」
「はい」
「……分かった。それじゃあ行くね。終わった頃にまた来るから」
妖精に「よろしくね」と頼んでから手入れ部屋を出る。丁度廊下を曲がってこちらに向かっていた国広と視線がばったり合い、駆け寄った。二人で広間へと向かう途中で、国広が報告を始める。
「資材は倉庫へ運んだ。それと、さっきは言う隙が無かったが、道中刀も拾ったぞ」
「えっ、気付かなかった。悪いことしちゃったな。いまから顕現しようか」
「……あんた、体に問題はないのか」
国広の言葉に首を傾げる。国広は布を引っ張って目元が見えないように隠してから言った。
「昨日、こんのすけが言っていた。審神者によっては一日一振りしか顕現できない者も居ると。あんたは……他の審神者より体力があるらしいが、昨日から働き詰めでほとんど休んでないだろう」
「……」
「……? おい、聞いてるのか」
国広が足を止めて、顔の向きをこちらに向けたお陰で目が合う。私は驚きを隠せずに、無意識に呟いていた。
「国広、もしかして心配してくれてる?」
「……」
「……」
「……あんたが倒れたら困るだけだ」
再びスタスタと歩き始めた国広の背を見て、自然と笑みが浮かぶ。小走りでその横に並んで、緩みまくった口元を引き締めてから言った。
「私は大丈夫だよ。今のところ調子が悪いとかはないし」
「……ならいい」
「ありがとう」
「……礼を言われるようなことはしていない」
「嬉しかったから」
国広は相変わらず布で顔を隠している。会話が無いまま二人並んで広間の前にたどり着くと、愛染が戸の前で腕を組んで唸っていた。
「どうしたの」
「主さん! 加州の様子がちょっと変、でさ」
「加州が?」
国広と顔を見合わせて首を傾げる。そういえば鳥居で出迎えたときもおかしかったけれど……。どうしたのだろう。
「なんか言ってた?」
「確か、いしんの刀……とか」
「いしん?」
聞き覚えのない言葉を繰り返し、不思議に思いつつ広間への戸に手をかけた。
広間に居たのは加州のみだった。今剣と長谷部が資材を運んでくれているのだろう。机の傍に座り込んでいる加州はむすっとした顔で一本の刀を睨んでいた。けれど、部屋に入ってきた私に気付くと表情を明るくさせる。
……うーん、特に変なところはないような。しいて言うなら持っている刀を見る目が鋭い、ような? 愛染も同じように思ったのか「あれ、戻ってる」と呟いた。
「なにが?」
「あんたの様子がおかしいと愛染が言っていた」
国広の言葉に加州が「あ〜」とぼんやりした声を出す。三人で首を傾げていると、加州はゆっくり立ち上がり、持っていた刀を差し出した。
「前の主同士が、ちょっとね」
「……前の?」
「そ。まあ、気にしないで」
加州をじっと見つめるも、薄く笑うだけでそれ以上のことは何も言わなかった。
前の主同士が顔見知り、ってことだろうか。あまり仲良くなかった……とか?
ぴょんぴょんと跳ねた髪。オレンジの瞳はきらきらと輝いている。
桜の花びらが消え、目の前に現れたのは人懐っこそうな男の人だった。
「わしは陸奥守吉行じゃ。せっかくこがな所に来たがやき、世界を掴むぜよ!」
―――方言だ!!
ぴしゃん、と雷が落ちたような衝撃が走る。記憶喪失でも方言という文化は知っていたようだ。
太陽のような笑顔と溌剌とした声は、愛染と似たなにかを感じる。
「よろしく、陸奥守」
「がははは! まーかせちょけ!」
嬉しそうに私の肩をばんばん叩いた陸奥守だったが、私の斜め後ろに控えていた加州に視線を移しその腰の刀をじっと見つめるうちに笑顔が消えていた。といっても無表情ではなく、少し驚いたような顔だ。
「どーも」
「おんしゃあ、新選組の」
「加州清光」
「……」
険悪とまではいかないけれど、お互いに多くを語らずに視線をぶつけ合う姿は不安を煽られて仕方ない。思わず横にいた国広の布をぐいっと引っ張ってしまった。
その時、ちょうど戻ってきた長谷部や今剣が廊下から顔を出す。「しんいりですね」今剣の言葉を聞いた陸奥守が視線を逸したのと同時に、加州が「はあ」と大きなため息を吐いた。
「ま、元の主が敵同士とか、ここでは関係ないか。今は同じ主を持った仲間同士、なんだからさ」
陸奥守は加州の言葉に大きな目をまるまるとさせてから、歯を見せて笑った。
「なんじゃあ、ちっくと驚いたぜよ。けんど、気持ちはおんなじ。よろしく頼むぜよ!」
にかーっと笑った陸奥守に、加州はさっきまでの陸奥守のように目を丸めてから呆れたように体の力を抜いた。とりあえず、丸く収まった……のだろうか。ちらっと斜め上の国広を見上げると、視線が返ってくる。こくんと頷いた国広にほっと胸を撫で下ろし、掴んだままだった布から手を離してから「あ」と思い出したことを口にした。
「そうだ、加州。加州の荷物部屋に運んでおいたから、後で確認してくれる?」
「えっ!?」
「なっ!?」
私の言葉に驚いたのは加州と何故か長谷部もだ。その後ろでは愛染と陸奥守がさっそく打ち解けたように笑い合って話をしている。……どうしてそんなに驚いているんだろう。
「主はそんなことしなくていいよ!」
「そうです!! 俺に言ってくだされば!」
「でも、みんな出払ってたし……そうだ。洗濯も終わらせておいたよ」
私の言葉に、長谷部はその場に崩れ落ちてしまった。「主になんてことを……俺は……」と地面に向かって嘆いている。私の心の声を代弁するように「なんじゃなんじゃ、面白い刀じゃのぉ!」と陸奥守が笑った。