君の影が見える場所


飲み物買ってくる、と席を立った俺に、リエーフが一緒に立ち上がったのをクロが腕を掴んで引き止める。別に、いいのに。苗字さんのあとを追うわけじゃないし。心の中で言い訳をしてから教室を出る。階段を降りて自販機を目指して歩き、渡り廊下の奥に苗字さんとサッカー部のやつの姿を見つけた俺は足を止めていた。同じ部活でもないんだから、人気のないところに呼び出して、顔を赤くして言うことなんてひとつだろう。虎の言葉が蘇る。告白、リア充。はあ、とため息を吐く。いつの間にか握りしめていた拳に力が入る。
なんなんだ、なんなんだよ、もう。
この胸のわだかまりはなんなんだ。

勝手に踏み出した足に混乱する。体は自然にふたりのところへ向かっていた。割り込んで何を言うんだろう。告白を遮って俺はどうする気なんだ。苗字さんが嫌がっている素振りを見せてくれたら、助けに入る口実もできるのに。こっちに背中を向けている苗字さんの表情は分からない。男の方だって強引な様子はない。

俺ほんとなにしてるんだろう。場違いにも程がある。閉じられた扉を開けて、二人に近づく。同じタイミングで男の方が体の向きを変えて俺の方に歩いてきたから俺は固まった。話は終わったみたいだ。その表情が喜んでいたら俺は嫌だったから、横を通り過ぎたそいつの顔から目をそらした。斜め下に向けていた視線を前に戻すと、不思議そうにこちらを見つめる苗字さんと目があった。

「孤爪くん? どうしたの?」

久しぶりに俺の名前を呼ぶ苗字さんに、こわばっていた筋肉から力が抜ける。

「飲み物、買いに来た」
「……自販機はあっちだけど」

苗字さんの言葉に気まずくて視線を逸らす。そうだ、自販機に用がある人間がこの道を通ることはない。校舎の中だ。扉を開けて渡り廊下に出る必要はない。嘘を重ねてぼろが出るのを避けて、考えながら口を開いた。

「途中で見かけて、どうしたのかなって」
「なんでもないよ。ちょっと話してただけ」

苗字さんはそう言ってから「私も一緒に買いに行こうっと」と笑った。数秒前まで告白されていた人間の表情には見えない。なんて返事をしたんだろう。そればかりが気になって仕方ない。何も話さないまま自販機の前まで行ってから、俺は財布を忘れたことに気がついた。