星とは恋によく似てる


黙り込んだままの苗字さんに、頭がすーっと冷めてくる。告白のようになってしまったし、苗字さんも何も言わないということは困らせたってことだ。さっき告白されたばかりで、ただのクラスメイトだった俺に突然意識してるなんて言われたら困るに決まってる。気味悪がられたって仕方ない。

途端にこの場から逃げ出したくて立ち上がる。ごめん、変なこと言った。忘れて欲しい。必死に考えて口を開いた俺は手を引っ張られて再びベンチに座らされた。

「そんなこと言われたら、勘違いする」

手を握ったまま苗字さんが言う。おそるおそる顔を向けると、苗字さんは深く俯いていて表情が見えなかった。まっすぐ下ろされた髪がその横顔を隠す。

「去年マネージャーに誘ってくれたときも、私が断ってからしばらく元気無かったって山本くんが教えてくれたの。授業中眠ってる生徒に、わざわざ勉強を教えるなんて、孤爪くんらしくないとも言ってた……他の女子とは全然喋らないし、挨拶だって私以外だと会釈するだけなのに、私にはちゃんとおはようって言ってくれる」

止まらない苗字さんの言葉に困惑してしまう。苗字さん、虎と知り合いだったのか。話したところなんて見たことが無かったから、面識は無いと思ってた。

「私があげた飴を食べないで大事にとってあるって黒尾先輩に教えてもらって、レモン味、そんなに好きじゃないことも聞いた。私が石鹸の匂いが好きって言った次の日から制汗剤を変えてきて、それからずっと孤爪くんから石鹸の匂いがして……席替えの日に限って不機嫌になったり、男の子に呼び出されたときに来てくれたり」
「……」
「お財布忘れたのだって、孤爪くんがそれだけ慌ててくれたのかなとか。自分に都合のいいように考えてる」

ちょっとでいい。少しだけ時間が欲しい。頭がぐるぐるしてうまく頭が働かない。俺の左手を握り締める苗字さんの手に視線を落とす。俺はクロやリエーフのように大きな手ではないけれど、それでも苗字さんよりは大きかった。小さな手に力が込められて、表情の見えないその横顔を見つめる。

「孤爪くん」

俺の名前を呼ぶ苗字さんの表情が見たくて、空いた右手で苗字さんの横髪を掬う。吃驚して顔をあげた苗字さんの表情は俺に負けないぐらい赤かったと思う。俺は全身が火に包まれてるように熱いくせに頭だけが妙に冷めていて、恥ずかしそうに俺の手を見つめる苗字さんから目が離せない。見たかったものが見られたので、右手を下ろす。苗字さんは熱っぽい視線を持ち上げて俺をまっすぐに見た。小さな口が少しだけ開いて、言葉を飲み込んでから、再び開かれるのを、ただ静かに待っていた。

「孤爪くん、私のこと、好き?」

一年半一緒に居て初めて見るその表情に、お腹のあたりがゾワゾワした。潤んだ瞳と上気した表情から、俺はやっぱり目が逸らせなくて、けど少しだけ男の意地を見せたくて、右手で苗字さんの頬に触れる。苗字さんは身を竦ませて視線を外したけど、強引にこちらを向かせた。笑っていなくても、眠っていなくても、やっぱり苗字さんは可愛いかった。そんな表情を見るのがほかの誰でもない、俺だけだという事実に身震いする。不安そうに答えを待つ苗字さんに、俺の表情は自然と和らいでいって、「うん」と頷く。

驚いたように目を丸める苗字さんに、笑声が溢れた。

「好き」

甘ったるい声が自分の喉から発せられていることに驚いた。幸せそうに笑ってくれた苗字さんが、弾んだ声で「私も孤爪くんが好き。大好き」と言ってくれたことに心臓がこれ以上ないくらいに高鳴っていく。全身が急激に熱くなって、今にも空を飛べそうな心地になる。ぐわんぐわんと頭の中で鈍い音が鳴り響く中で苗字さんが表情を変えて俺の名前を叫んだ。視界が真っ暗になって目の前に星が散る。苗字さんに向かって倒れた俺を、苗字さんの華奢な体が抱きとめてくれた。


どこから見てたのか知らないけどクロ達が大慌てで出てきて俺を担ぎあげて、保健室に運んでくれたらしい。熱中症と診断されて意識が朦朧としたまま水を飲まされ、額に冷えピタを貼られてから数分、やっと意識が戻った俺は苗字さんにごめんと謝った。良かったと泣きながら器用に笑う苗字さんの言葉がむずがゆい。微笑ましそうに俺たちを見守るバレー部のみんなの視線は居心地が悪くて、隠しきれていない虎の嗚咽はやかましくて仕方なかった。

盗み見なんてやめてよと力なく言った俺に、クロは「末永くお幸せに」と笑うのだった。