まだまだ青い彼でいい


名前と付き合ってから半年が過ぎた。今でも朝起きるたびに、名前が俺を好きだと言ってくれたのは夢の中の出来事じゃないかと考える。岩ちゃんにそれを言うと思いっきり頬を引っ張って確かめられるので、代わりに名前に言う。すると少し目を細めてから小さな手がきゅっと俺の手を握るから、俺は今すぐ溶けてしまうんじゃないかってぐらいデレデレして、結局岩ちゃんの拳が飛んでくるから痛いのは変わらない。

名前は日に日に綺麗さが増していく。それと比例して性格が冷めている気がするのだ。岩ちゃんは分からないと言っていたけれど、昔に比べて名前はあまり笑わなくなった。それだけじゃない。思っていることや表情を表に出さなくなった。
俺はそれが不満で、かなり寂しい。

例えば俺が女の子に告白されていて、その場面を名前がたまたま目撃しても、名前は何の反応も示さない。後で会っても何も言われない。名前を悲しませるのは嫌だけれど、知らんぷりされるのはかなり堪えた。

(普通、嫉妬とかするんじゃないの? もやもやしたり、ずっと考えちゃったり、さあ? しないのかな。)

好きな子に嫉妬してほしくて他の女の子とイチャイチャする、なんて馬鹿なことはしないけれど、少しぐらい焦ったりしてほしい。だって俺はいつも余裕がなくて、名前のことばかり考えているんだから。同じバレー部のやつらと話しているだけでも俺は嫌だ。胸のあたりがずきずき痛くなって苦しいし、嫌な感情ばかり溢れて止まらなくなる。部員との仲介役を買って出るから名前と直接話さないでくれ、とさえ思う。岩ちゃんに提案してみたら「束縛も程々にしねぇと嫌われるぞ」と一蹴されてしまった。それだけは嫌だった。嫌われるのだけは、ぜったいに。

でもどうしても気になった。俺のこと本当は好きじゃないんじゃないかと疑ってしまって、一度だけ聞いたことがある。「名前は嫉妬しないの?」恐る恐る俺が聞くと名前はそっと視線を逸らしてから「する」と呟いた。しないって言われたら納得できないくせに、淡々と望んでいた言葉を言われても納得できないなんて、俺って実は面倒くさいのか?

「でも、疲れちゃうから」
「疲れる?」
「色々考えてると精神がすり減ってく」

名前は小さくため息を吐いてから「徹が告白されてるの見るのとか、嫌だし」「たまにされる徹ファンからの呼び出しも、本当に嫌」「だから、見たくないものは見ないようにしてる」と立て続けに言った。名前は嫌な思いをしてるっていうのに、俺はさっきまで抱えていた不安が軽くなって楽になった。良かった。俺のこと、ちゃんと好きでいてくれている。っていうか呼び出しって何? そんなの聞いてないんだけど。

「それでも限界はあるから」
「?」
「もう無理だって判断したら、自分を守るために離れる」

俺は名前の言葉にぞっとして、細い腕を掴んだ。色々聞きたいことはあったけれど、名前が俺から離れないように手を伸ばすことが最優先だ。嫌わないでほしい。離れないでほしい。抱え込まずに話してほしい。なにから言えばいいか分からなくなって、ふと昔の言葉を思い出す。昔から、名前が弱いあるワンフレーズ。

「俺の我が儘、聞いてくれる?」

それを聞いた名前は仕方ないなあ、と言いたげに肩の力を抜いた。

「次呼び出しされたら俺も呼んで。絶対に一人で行かないで。男子でも女子でもね。あと、一人で抱えこんだりしないで。無理だってなる前に俺にぶちまけて」
「それ、我が儘じゃないと思う」
「我が儘だよ」

名前は困ったように眉を下げていたけど、少ししてから分かったと頷いてくれた。華奢な体をそっと抱きしめて身を屈め、小さな耳にキスを落とす。吃驚して大きく跳ねた体を抑えるように抱き直して笑った。


それからあからさまにスキンシップの増えた俺と、抱きつかれて微動だにしない名前を見て、岩ちゃんは「あんま名前に負担かけさせんなよ」と呆れ、名前は「長続きする恋はほどほどが良いって言うよね」と冷めた表情を浮かべた