まどかなる星の常
名前さんは烏野高校に通う生徒だった。彼女の父親は音駒高校男子バレー部の顧問。合宿の度に顔を合わせていたが、強面の割に落ち着いた声で話し(猫又監督の方がよっぽど大声を出す。)傍から見て分かるぐらい、生徒から慕われている教師だった。俺も、一年の合宿のキツさで吐いていたときに手を貸してもらった覚えがある。愛妻家だという話は聞いていた。……確かバレー部の練習試合で顔を合わせた奥さんに一目惚れして、「試合に勝ったら結婚してください」とプロポーズしたんだっけ。初めて黒尾さんに聞いたときは木兎さんみたいな人だなという印象を抱いた覚えがある。
「悪いな、受験生なのに」
それを聞いて初めて彼女が自分より年上だと気付いた。見た目が幼いから、とか子供っぽいからという理由ではなく、高校三年生の夏という大事な時期に、合宿の手伝いに来る人間が居るとは思わなかったのだ。部活のマネージャーならともかく、彼女は帰宅部だと黒尾さんから聞いていたので。
木兎さんに(強引に)連れられて彼女に声をかけたときも、俺はほとんど緊張して話せなかった。夏の暑さなんて感じさせない涼しげな表情で、音駒高校のジャージに身を包む彼女は浮いていた。容姿の端麗さもそうだが、彼女を包む空気自体が普通とはかけ離れているように思えた。両親の馴れ初めを黒尾さんにからかわれた名前さんは、頬を少しだけ上気させてジャージを脱いだ。初めて見る表情の変化と赤く染まった肌に、俺はようやく彼女が同じ人間なんだと実感した。
その合宿中に一度だけ、
たった一度だけ偶然が重なって見た光景を、三年経った今でも俺は忘れられない。