花は散れども死にはせず
岩ちゃんと分かれ、俺と名前は暗い道を歩いていた。ぴたりとくっついた腕の下ではいつものように手が繋がれている。その手に触れるとき、俺は少しびびっていた。嫌がられたらどうしよう、怖がられたらどうすればいい。あんなことをしておいて、許さなくていいと言っておきながら、こんなにも名前に嫌われることを怯えている。
名前の家に着いて、その手を離す前に名前を呼んだ。名前の表情は普段通りだ。けどその体に、俺が残した傷が刻まれているのだと思うと、上手く息が出来なくなる。時間を巻き戻して、あの日の俺に頭突きをしてやりたい。
「俺のこと、怖くないの?」
俺の質問に、名前が本当に理解できなさそうに首を傾けるから、全身の力が抜けた。
「絶対、痛かったはずなのに、無理やり押さえ込んで、あんなこと」
改めて口にする自分の所業に青褪める。こんなにも深い後悔はしたことがなくて、行き場を失った感情が暴れだす。
「嫌われて当然なことを、俺はおまえにしたんだよ」
気付いたら名前の小さな手を強く握り締めていて、慌てて力を緩める。名前はじっと大きな瞳で俺を見上げて、口を開いた。聞きたくないと咄嗟に耳を塞ぎそうになってしまった。
「私は徹を嫌いになってない」
「……」
「怒ってもない。あの時は痛かったけど、今はもう痛くないし、痣もすぐに消えるから平気」
名前はそう言ってから一度視線を下げた。その先には繋がれた俺たちの手があった、名前がきゅっと力を込めたのが分かる。
「徹が好き」
「……」
「だから、一番幸せになってほしい」
名前は泣くのを我慢するような表情をしていた。顎を持ち上げた名前と視線がかち合う。俺は名前と向き合って、空いていた手を掴んだ。両手を強く握りしめて、必死で言葉を探す。探すけど、見つからなかった。こんなにも感情は溢れそうなのに。
「……触れたところから」
「?」
「俺の考えが全部伝わればいいのにね」
名前は気が抜けたように俺を見ていた。それに気付かない振りをして、名前の両腕を自分に向かって軽く引く。小さな体がぶつかってきて、鼻腔をくすぐる優しい香りがした。
「俺は、名前が傍に居てくれたら嬉しい」
「……」
「だけどたまに、どうしようもなく苦しくなることがある」
「……うん」
深く俯いてしまった頭を撫でたくて、手を離そうとしたけれど強く握られて動かせなかった。代わりに俺も握り返す。
「全部ひっくるめて、俺は名前と一緒に居たい」
ゆっくりと顔を上げた名前に微笑んで背をかがめる。気付いたように目を閉じる名前の可愛さに胸が温かくなって、同時に切なくなって痛い。顔を傾けて触れ合った熱がなにより愛おしくて、俺はやっぱり長い夢を見てるんじゃないかとさえ思うんだ。