あなたが静かに眠れるように


季節が過ぎ私達は一つ年を重ねて、高校生になった。青葉城西高校の白い制服は入学して数ヵ月経った今も、きらきらと輝いて見える。「岩ちゃん似合わないね」と耳打ちしてきた徹が、一の蹴りを食らわされて吹き飛んでいった。三人並んでいるのだから聞こえるに決まってる。




男子バレー部は毎週月曜がオフで、徹は中学に比べるとしっかり休むようになっていた。初夏となって強くなった日差しから逃げるように、徹の部屋でだらだらと過ごす。一緒にバレー雑誌を読んだり、試合の映像を見たり。休日何してんのと聞いてきた花巻にそれを教えたら、「お前ら付き合ってんだよな? 及川の妄想じゃねえよな?」なんて言っていたから、私達は少しずれているのかもしれない。



去年のあの夜以降、徹とそういう行為をしたことはない。

手を握ったりキスをしたり、同じ布団に寝転んだり。スキンシップは多い方だと思う。他の人達の基準は分からないけれど。今だって別々の雑誌を見ているのに足の間に抱え込まれるように座らされて、徹の顎が肩に乗せられてぴったりくっついている。

「この服可愛いね。名前に似合いそう」
「これ駅前に新しく出来たとこじゃん。来週行ってみようよ」

徹は自分が持ってる雑誌を読んでないんじゃないかってくらい話しかけてくる。かと思えば「げっウシワカ、はい次〜」なんて言うから、ちゃんと読んでいるみたい。

いつの間にか自分の雑誌を置いていた徹は額をぐりぐりと肩に押し付けて抱きついてきた。お腹のあたりを触っている手がくすぐったい。構って欲しいのだと思った私が雑誌を机に置き体を捻ってみると、徹が顔をあげる。ブラウンの瞳には隠しきれない熱が宿っていて、私は何も言えなくなる。

ゆっくり近付いてきた徹の顔に、そっと目を閉じて息を止める。柔らかな唇の感触があたって、啄むようにちゅっちゅっと音を立てるから、恥ずかしくてたまらない。くっついたまま恐る恐る目を開けると、同じように目を開けていた徹と至近距離で視線がぶつかって驚く。恥ずかしいからキスをしてる時は見ないでと言ったのに。自分の行動を棚に上げて顔を赤くさせた私に、徹は器用に笑って私の背をなぞった。ゆっくりとこじ開けるように舌が入ってきて、強く目を瞑る。生き物のように口内を動き回っていたそれは、最後に唇をなぞってから離れた。太ももにあたっている熱いものの正体が分からないほど鈍くはない。なのに徹は堪えるようにぐっと目のあたりに力を入れて、私から離れていく。そういう雰囲気になると、徹はいつも逃げようとする。

遠ざかっていくその腕を掴むと、徹は固まった。私がこんなことをするのは初めてだから驚いたんだろう。だって、これまでは私はなにもしてこなかったし、言わなかったから。ただ深呼吸して落ち着こうとする徹を見ていただけだった。だけど、どうしても気になってしまった。

「しないの?」

私の言葉に徹は目を見開いて、それから泣きそうな顔をした。泣いて欲しくはなかったけど、徹だって私とそういうことがしたくないわけじゃないと思う。反応してるし、たまに顔を真っ赤にしてトイレに駆け込んでいるから。徹は小さな声で、本当にか細い声で「傷付けたくない」と言った。

「私、そんなに柔くないんだけど」
「俺が触ったら壊れちゃいそう」
「……なら私が触る」

徹は「へっ」と気の抜けた声を出したけど無視してネクタイを外しにかかった。しゅるしゅると解かれて机に置かれたネクタイに、徹は飛んでいた意識を戻して手首を掴んでくる。掴まれていない方の手でシャツのボタンを外していく私に、徹は顔を真っ赤っかにして「だめだって!」「とまって!」「ぎゃっ」なんて声をあげている。

「大丈夫、松川のおすすめDVDを見て勉強したから」
「全然大丈夫じゃないんだけど!!」

結局最後まですることはなかったけれど、布団の上でぐったりと力なく倒れている徹に少しだけ満足した。去年のように下着とズボンを履かせてあげて、その横に倒れこむ。今度はちゃんとティッシュで拭いてあげた。徹は手の平で顔を覆い隠しているけれど、はみ出た耳や首のあたりがりんごのように赤く染まっている。

奥の方で少し熱を持ち始めた身体に気付かない振りをして、「よかったですか」と聞いてみる。徹は「んぐう」と不思議な音を発してから微かに頷いた。満足そうに笑う私に、徹はしばらくその体制のまま動くことはなかった。