恋をしていた季節


私の腕を掴んだ徹は、苦しそうに顔を歪めて俯いた。

すぐ傍にある徹の髪を撫でようと手を伸ばして止める。中途半端に開いていた手をぎゅっと握りしめて、自身の膝の上に落とした。痛いほど握ってくる徹の大きな手を見ていると、これまでの日々が蘇る。この手が私に与えてくれた幸せな時間を思い出す。

私の存在が徹にとって、重荷になったらすぐにでも離れようと思っていた。なのに、三年前のあの夜。私の存在は徹を苦しめていると言われたのに、私は手を離すことができなかった。

遠くへ行ってほしくなかった。
この先、この手が私以外の女の人に触れるのかと思うと呼吸さえ上手くできなくなってしまって。
徹の優しい言葉や可愛い我が儘を、もう二度と聞けないのかと思うと全身から血の気が引いて。徹が私を好きでいてくれているこの瞬間に、死んでしまいたいと馬鹿なことを考えていたのに、徹が手を握り返して「傍に居たい」と言ってくれたから。
その言葉にずっと甘えていた。



徹がこれから言おうとしていることを、私はちゃんと理解している。
私の気持ちは変わらない。これからもずっと、徹が好き。
一番幸せになってほしいと願っている。

だから言うんだ。「私は大丈夫」だって。徹がバレーを続けることを、行きたい場所へ進んでいくことを、これからも応援し続けるって。それが恋人という立場じゃなくてもいいのだと。もう会うことがなくなっても、徹が私との日々を過去の思い出にしてしまっても良い。いっそ忘れてしまっても構わない。私のことを、自分を苦しめる存在だったと突き放したって、私は絶対に責めたりしないから。

言ってほしい。早く終わらせてほしい。うそだ。終わってほしくない。応援する気持ちと同じくらい、こんなに傍に居たいのにという感情が渦巻いている。どうして好きなのに離れなければいけないのだろう。どうして好きって感情だけじゃだめなんだろう。

ずっと腕を掴んでいてほしい。心の中で呟いた私の気持ちを読んだように徹がそっと手を離したから、私は全身の力を抜いた。これで終わりなんだと、漠然と思った。

「だめだ」

徹がゆっくりと顔をあげる。今にも泣きそうな表情で、それでも必死に我慢していた。

「なにを言っても俺は名前を傷付ける」
「……」
「……言ってくれ。俺にはついていけないって。もう限界だって。おまえがそう言ってくれたら、俺も身を引くから。名前が俺以外の男と一緒になるのを、心から祝えるように頑張るから」

言い終えると徹はぼろぼろと涙を流した。自分で言った言葉で、傷付いているのが見て分かった。

私が徹以外の男の人と一緒になる日なんて、想像ができない。その逆は想像すらしたくない。そんな日訪れなくていい。徹以外嫌なのに。私以外嫌になってほしいのに。

けどやっぱり、徹には幸せになってほしかった。
徹の中から私が消えていなくなれば、それで徹が幸せになるのなら。

「ごめん」
「……徹」
「俺を嫌わないで」
「……」
「おまえを好きで居続けるのを、許してくれ」