この夜は長いから
「音駒高校一年、苗字名前です。よろしくお願いします」
にっこりと最大限の笑みを作って言うと、女の先輩方が小さく「よ、よろしく」と呟いた。やっぱり、こうなるよなあ。なんて思いながら笑みを深くする。挨拶を終えて音駒の部員が揃っているコートへ向かうと、すぐに黒尾が寄ってきた。
「なーにー? 他校のマネージャーにビビられちゃった?」
ニヤニヤと笑う黒尾は、自分の髪型が注目を浴びていることに気づかないのだろうか。私の心の声を代弁したように、隣に並んだ夜久が「お前の髪もやべえけど」と言ってくれた。”も”ってことは私の髪もやばいと思ってたのか。
今、私達は生川高校の所有する合宿所を訪れていた。毎年、梟谷学園が合同合宿を主催しているらしく、私達一年が参加するのは今回が初となる。
先輩方が他校のバレー部員と親しげに話しているのを横目に、それぞれの高校のマネージャーの様子を確認する。ばちっと視線があった一つ上の先輩が慌てたように私から目を逸らした。ん〜、合宿中だけでも黒に染めておくべきだったろうか。音駒の先輩方や監督は、最初は驚いてはいたけれど、戻すようには言わなかったので、そのままにしていたのだ。学校にはもっと派手な色の生徒も居たので、感覚が鈍っていたのかもしれない。
「(まあ、今更考えたって仕方ない。仕事仕事)」
気を取り直して一人ドリンクを作っていると、とんとん、と肩を叩かれる。振り向くと二人の女の子が立っていた。二人共、胸元に梟谷の二文字が刺繍されているジャージを着ている。
「苗字さんだよね〜、私梟谷の白福雪絵。よろしく〜」
「私は雀田かおり。同じ一年ね。よろしく」
数秒ぽかん、としてからぱあっと顔が明るくなるのが自分でも分かった。
「こちらこそ! よろしく!」
ボトルを握りしめて言った私に、白福さんが「ほら、やっぱり良い子だったでしょ〜」と笑った。雀田さんが苦笑して「ほら、見た目を裏切らないやつが身近に居るから……」と頬を掻いた。
「??」
「あ、気にしないで。こっちの話」
作業をしながら二人と色々な話をして、他校の同学年マネージャーにも声をかけた。どの子もしばらくは顔が強張っていたけれど、話していくうちに緊張も解れて、その日のうちに名前呼びまで仲を深めることができた。午後の練習も終わり、仕事を終えた後にマネージャーの泊まる教室に集まる。
「ねえ、なんで赤髪? 赤好きなの?」
「ううん、特に好きな色って訳じゃないけど、音駒のジャージの色が赤だから、揃えてみようかなって」
「理由が意外すぎるんですけど」
先輩マネージャーの人も交えて談笑しているうちに消灯時間になって、それぞれの布団に入る。隣で眠っていた雪絵が「明日も頑張ろう〜」と眠そうに呟いた。
「頑張ろう〜」
小さく呟いて目を閉じる。慣れない環境で眠れるかどうか心配だったけれど、疲労もあってかすぐに眠りにつくことができた。
「すっげー赤い髪! いいなあそれ! おまえ名前は!? あ、俺ぼくとこーたろーね!! 梟谷の一年!」
「わっ」
「音駒のマネージャーなんだよな!! ジャージ着たら全身赤じゃね!? 試合会場で超目立つじゃん!! いーなー!!」
翌日の食堂で配膳をしていた私の前にやってきた男の子がノンストップで話し出す。逆立った髪と大きな目が特徴的なその男の子が、ぐいっと顔を近付けてくる。私がテンションで押し負けることがあるなんて、と呆気に取られていると、黒尾が相手を押しのけるように間に入ってくれた。
「はいはいそれ以上近付かないでくだサーイ」
「なんだよ黒尾!! 今話してんだろ!!」
「こいつと話すときは俺たちの許可が居るの」
わーわーと叫ぶ木兎くんをあしらう黒尾に、何も言えずに戸惑っていると、「やめろ木兎。ハウス」と言って別の男の子がやってきた。襟を引っ張られるように引きずられる木兎くんを見送って、黒尾と顔を見合わせる。二人揃ってため息を吐いて、朝から凄い生き物に会ってしまったな、と遠い場所を見つめた。