いつまでももがいている
東京に来て、三度目の春だった。
登校してすぐに配られた新しいクラス名簿。自分と同じクラス表の中にバレー部の友人の名前は見つけられなかった。肩を落として他のクラスを確認すると、黒尾と夜久が同じクラス。良いなあ、なんて独り言を零して自分の教室へと向かう。私は正直、新しいクラスメイトよりもバレー部に入部してくれる一年生が居るかどうかが気になっていた。二年の子たちはかなり個性が強いから、一年が物怖じしないといいけれど。
無事に新入部員も入り、(問題児が一人居るが)新体制での活動も慣れた頃、俺たち音駒高校と因縁のある、宮城県立烏野高校との練習試合が決まった。猫又監督があとどれくらい監督を務めてくれるかは分からない。俺だって今年が最後のチャンスだ。どうしても、ゴミ捨て場の決戦とやらを実現させたかった。GW合宿最終日、合宿場で顔を合わせた烏野の主将くんは、一度握手して分かったがかなり食えないやつ。これからやる試合がやけに楽しみで仕方がなく、踵を返した俺は真後ろに苗字が立っていたことで体の動きを止めた。苗字は目を丸めて、烏野の主将を見上げている。
「もしかして、澤村?」
苗字の言葉に相手はきょとんとしていたけれど、数秒苗字を見つめてから驚いたように口を開いた。
「苗字か?」
「あー、やっぱり! 澤村だ! 久しぶり!」
「お前、音駒だったのか」
「こっちのセリフね」
「それにその髪色……なんでまた赤なんだ?」
「ジャージの色が赤だから」
「……相変わらずだな」
呆れたように笑う主将と楽しげに話す苗字の間に挟まれ、俺は二人の顔を何度も見た。知り合い!? こんな偶然ある!? 衝撃で何も言えない俺をよそに、烏野の部員数人と、夜久達が集まってくる。
「どうしたー大地、知り合い?」
「ああ、同じ中学だったんだ」
「まさかこんなところで再会するなんてね〜。凄い偶然」
「運命的だな」
からかうように俺を見上げた夜久が言うと、烏野の主将は苦笑していた。直井コーチが「さっさと準備始めろー」と声をかけ、俺たちは慌てて解散する。苗字は最後、烏野の主将に向かって「後で話そう」と手を振っていた。それをじーっと見ていた俺の背中を夜久が叩く。
「意外なライバル登場か」
勝手にモヤモヤしていた俺を、研磨が呆れたような目で見てくる。山本がでかい声で「黒尾さんにライバル!? どこのどいつですか!!」と叫ぶのを視線で黙らせた。苗字は烏野のマネージャーと親しげになにかを話していて、山本の叫びを聞いていた様子は無かった。犬岡や芝山が俺に「心配しなくても大丈夫ですよ」なんてフォローを入れてくるのを軽く流しつつ、そもそも公言していないのに入部して一ヶ月の一年が何故知っている、という疑問が浮かぶ。俺の心を読んだように、研磨が「見てれば誰だって分かるよ……」と俯きがちに言い放ち、トドメの一言を夜久が言い放った。「赤葦には初日にバレてたじゃねえか」、と。
アップを終えてみんなが円陣を組む。とうとう試合が始まる。やけに気合が入っているのは、数年振りに行われるゴミ捨て場の決戦だからであって、他に理由はない。絶対に。