恋の空回り

恋の空回り



恋をしている。
きっかけは忘れた。
私が好きなその人は、とにかく無愛想。いや、冷静?
ほとんど表情が変わらないから、彼が何を考えているのかなんて私にはわからないのだ。

そんな同じクラスの赤葦京治はあまり目立たないタイプである。

「はーかっこいい……ほんともう……」

同じクラスなのをいいことに、私は彼を目で追う始末だ。
友人からは分かりやすすぎると言われるけれど、当の彼が気づいていないならかまわない。

そうだ、思い出した。
彼を好きになった理由、それは彼の笑顔にある。

普段は本当に表情が変わらないのに、部活をしているときだけ生き生きする彼の、嬉しそうな顔。
いわゆるギャップ萌えというやつだ。
私はそんな彼の、年相応の笑顔に射抜かれ、そうして恋におちたのだ。

「今日もかっこよすぎかな」

見つめて見つめて見つめて見つめて、ため息を吐く。
私が彼を見ていることも、恋心を抱いていることも、彼は一ミリだって気づかないんだろうな。……気づかれたら気づかれたで正気を保てる自信がないけれど。

そんな一日が今日も始まる。



赤葦京治は二年生にしてバレー部の副主将だから、知る人は知っている。彼がかっこいいということを。
今日だってほら、放課後の部活の時間になれば、彼を目当てにする女の子がたくさん体育館に集まっている。
私もそんな女子の一人だけれど。

「きゃー、頑張れー」

「赤葦ー!」

頑張れとか、私も言ってみたい。けれど、それをしてしまったら、私の目当てが赤葦くんだってばれてしまうから、私はほかの先輩を応援してるふりをするのだ。

「ナイスキー! 京治!」

京治、だなんて口が裂けても言えない。
いや、言ったら私の方がおかしくなる。
憧れの王子さまを呼び捨てになんかできるはずがない。

でも。
私は彼を横目で見る。

切れ長の目は主将である木兎さんをじっと見ている。
試合中の集中した彼の顔は、本当に息をのむほど美しい。
それから、汗だって、彼に掛かったら色気以外の何物でもないのだ。

ああ、素晴らしきかな。

私はコート全体を見渡す。

この狭いようで広いコート内のすべてを把握している彼が、遠い存在に感じた。



彼がバレー部だと知ったのは、そう、確か体育で男子がバレーをやっていた時のことだ。
わああ、と女子の歓声が上がったとき、その視線の先にいたのは紛れもなく彼だった。
彼はセッターというポジションだけれども、体育の授業レベルだったら、オールラウンドに何でもこなした。
息をのんだ。

あんなクラスメイト、いたっけ?

それが最初に思ったこと。でもそのあと、私は彼について友人からいろいろと訊きまわった。

そうして知ったのは、彼がバレー部の副主将でレギュラーであることくらいだったけれど、彼の部活を見に行った日には、彼に恋に落ちていた。
単純である。

「ねえ、あんた、いつ告白するの?」

「ぶっ、誰に告白するのさ?」

「またまたー。赤葦だよ」

「するわけない! だって彼は王子さまだもん」

つまりはそう、かなわぬ恋だからこうも燃え上がるのであって、手に入れてしまったら私はきっと燃え尽きてしまう。
いや、そんなのただの言い訳だってわかってる。
彼が私に興味を持ってくれないことくらい、分かっている。身の程をわきまえているのだ。
だってあの彼が、バレー以外のものに興味を持たないことは、この数カ月で嫌というほど思い知らされたから。

「やってみなきゃわからないと思うけどな」

「いやいやいや。無理でしょ。そもそも私にそんな勇気、ないから」

何事もあきらめが肝心なのだ。
変に期待を持つから落胆する。
つまりは私は傷つきたくない。この恋は、実らなくていいものなのだ。
私は遠くから彼を見てるだけで、本当に幸せなのだから。



そうして今日も、放課後の体育館に足を運ぶ。
たくさんの女の子たちが、おのおのお目当てのバレー部員を応援する中、私もまた、彼にばれないように、バレー部全体を見て応援していた。
今日も眼福である。

だけれども、私はこの日、明らかな失態を犯した。

「え……?」

彼と目を合わせてしまったのだ。しかも何秒間も。いや、もっと長かったかもしれない。
私は彼から目が離せない。そして彼も、私から目を離さない。離さないどころか、じいっと私を見たあと、ふわりと笑うのだ。

「え、え?」

そうしてこともあろうか彼は、ふわりとした笑顔を浮かべたまま、数秒にわたって私に手を振ってきたのだった。
くちぱくで、『ありがとう』そう言いながら。

つまりはこれはどういう意味をはらんだ行為なのだろうか。
体育館の雑踏が一瞬にして凪ぐ。
私と彼の間だけ、時が止まったようにも錯覚した。

そのあと時間差で私の心臓が早鐘を打つものだから、私は彼に二度目の恋に落ちてしまうのだった。






170316