慣れないもの

慣れないもの


それは毎年、年に一回やってくる、俺を悩ませるあまり好きではない一日だった。

誕生日。

小さい頃は親や友達に祝われるのが嬉しくて、その日が待ち遠しくて楽しみだった。だがある程度歳が行くと、それは厄介で疎ましい行事に変わる。

ここ数年は本当にその日が面倒で、早く一日が終わらないかとそればかり願っていたくらいだ。
俺の周りにはお調子者やおちゃらけた人間が多く、俺の誕生日ともなれば、あの手この手でよくわからない祝いかたをしてくるから、俺は誕生日が嫌いだった。まあ、主に原因は及川にあるんだが。

「あっ、岩泉くん。今日は一緒に帰ろうね」

「お、おう」

そんな近年の憂鬱を一蹴したのは、他ならぬ彼女の存在のお陰だった。
派手すぎず地味すぎず、だけど俺から見たらとびきりいい女。
それが彼女、霜月ミオという存在だった。
いい女、なんて表現は少しキザかも知れないが、霜月を表す言葉が他に見当たらないのであえてそう表現している。

そんな霜月は一応俺の彼女で、だから彼女が今日、俺に何かプレゼントをくれるのだとあらかじめ聞いていたのだ。霜月は真っ直ぐな人間だから、サプライズを計画できない人間らしい。誕生日の一週間前と前日に、6月10日に誕生日プレゼントあげるね、とメールをもらっていたりする。

そしていざ朝練を終えてもそれは渡されず、昼休みの今さっき言われた言葉から察するに、帰りにプレゼントを渡してくれるようだった。
今から心臓がどくどくと脈打っていて、緊張のあまり口から心臓が出そうだった。



そんなわけだから部活にも身が入らず、俺はミスを多発した。そしてその度に及川に揶揄された。

"ミオちゃんと誕生日デートだからって浮かれすぎ!"

今日一日で何度言われただろうか。及川からは数えきれないほどに、他の部員からは数回ほど。

例年ならこういう誕生日ムードにイライラさせられていたはずなのに、今日はさして気にならない。これは他ならぬ霜月のせいだ。霜月の存在が、霜月からの誕生日プレゼントが、俺を動揺させているのだ。



楽しみな時間というのはなかなかやってこないと相場が決まっている。いつもはいくら練習してもし足りないくらいに時の流れが速いのに、今日の部活の長さと来たらここ近年まれに見る長さだったように思う。



部活を終えたら終えたで、汗をかいた服を着替えるのにも気を使った。いつもとは違う柑橘系の制汗剤なんかを使ってみたりと身だしなみへの気遣いは自分らしくないことこの上なかった。

そうしてようやくやってきた霜月との誕生日デート、俺の緊張はふりきれてしまう。

結局、誕生日デートの記憶は曖昧で、自分もまだまだ男として修行が足りないな、等と悟りの境地に至ったのだった。



慣れないもの



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岩泉くんHAPPY birthday!


170610