引退した先輩

引退した先輩



春高予選決勝、私たちは接戦の末敗退した。

「あれ、瀬見さん?」

「ああ、ミオか。おはよ」

敗退翌日、引退した三年生の先輩、瀬見さんが朝練に顔を出した。
まだ引退したという実感がないのか、一、二年に混じってバレーを始めていた。

「瀬見さん、引退したばかりじゃないですか」

「いーんだよ、気晴らし」

「だって勉強しなくていいんです?」

「まあ俺はそれなりにやればできるからな」

にかっと笑う瀬見さんは、でもどこか寂しげだ。
どき、と胸が痛む。
いよいよ引退したとなれば、次は卒業。本当の別れはすぐそこだ。

「ミオは」

「はい」

「ミオはさ、あと一年こいつらと頑張れよ」

頑張れよ、なんて他人行儀な言い方だ。
もう、一緒に頑張る立場ではなくなってしまった。
それがとても寂しかった。

「頑張りますよ、瀬見さんに負けないくらい」

「ふーん。なあ、ミオ」

「なんです?」

「これから先も、俺と一緒に頑張りたい、とか言ってくれないの?」

瀬見さんは私を見下ろして笑っている。
相変わらず眩しい笑顔は、だが先程とは違い寂しさはなかった。
どうしてそんなことを言うのだろう。

「一緒になんか、無理ですもん」

「無理じゃないだろ」

「瀬見さん?」

何を言わんとしているのか、私にはわかない。
見上げた瀬見さんは、私の頭に手を置くと、私の頭を乱暴に撫でた。

「好きなんだよ、ばか」

そんな言い方、ずるい。
私だって瀬見さんが好きで、だけど確信が持てないから好きだって伝えられなかったのに。
なのに瀬見さんはあっさりと好きだと言う。

「私も好きですよ」

「知ってる!」

ほら、やっぱり。
瀬見さんは本当にずるい人だ。



170202