ビターorスイート

ビターorスイート



教室内がいつもより賑やかなのは、おおよそ勘違いではないはず。
なにしろ今日はバレンタインだから、男子も女子も浮き足立っているのだ。

私もそんな浮かれた女子の一人であるが、だけど少しの躊躇いがあった。

私の思い人は少し天然なのだ。

バレー部で一年生にしてレギュラーを勝ち取った彼は、周りからちやほやされることに慣れてはいるが、だけど色恋には疎いのだ。

鞄に入れたチョコレートは、紛れもなく彼に向けて作ったもので、だけど私は放課後になるまでそれを彼に渡せずにいた。

「五色くん……」

渡せずにバレンタインを終えるわけにはいかない、改めて気合いを入れ直し、私は体育館に足を踏み入れた。

バレーをしている五色くんはかっこよく、普段授業中に居眠りをしている彼が同一人物だとは思えないほどだ。

「あれ、霜月」

「えっ?」

私が彼に見とれれば、休憩時間になったのか、いつの間にか五色くんが目の前にいた。
私は手に握っていたチョコレートの包みを咄嗟に背中に隠す。

「先輩に用だった?」

「ちが、五色くんに……」

なんと切り出すべきだろうか。
義理チョコ? 応援してる?
迷った末、なにも言わずに渡すことにした。

「これ」

「? 俺に?」

「うん」

「……! ありがと」

五色くんはチョコレートの包みを受けとるや否や、包みを開け始める。
そして現れた不格好なチョコレートを見て、笑う。

「手作りだ」

「ご、ごめん。あんまりきれいに出来なかった」

「嬉しいや」

そのまま五色くんはパクリとチョコを口に入れた。
モクモク咀嚼して、私を見て、また笑う。

「美味しい」

「そう?」

「うん。霜月からのチョコなら、どんなのでも美味しいよ」

「えっ?」

つまりはどういう意味なのか。訊きたくて訊けなくて。
ただ、五色くんの眩しい笑顔に、私はただただ心奪われるばかりだ。

「ホワイトデー、期待しててね」



170204