不器用さん

不器用さん



隣の家から漂う甘いにおい。のち、焦げたにおい。
俺の隣の家には幼馴染みがいる。
同い年のミオは、お世辞にも器用とは言えず、この焦げたにおいは恐らく、明日に迫ったバレンタインの何かを作っているのはあきらかだった。

「なにやってんだか」

そしてバレンタインとなると、俺にも義理チョコが渡される。
毎年のことだが、最近は少し面倒くさいとすら思う。
ミオは今年、誰にチョコをあげるのだろうか。そんな嫉妬心を抱く自分が情けなかった。



「あ、いたいた! 賢二郎! ハッピーバレンタイン!」

朝一番で、ミオは俺にチョコを渡しに来た。
先輩たちが俺を冷やかすわけでもなく見ているのは、俺とミオが単なる幼馴染みだと周知されているからだ。

「別にいいのに」

「そうはいかないよ。食べてね?」

例年通りの文言に、俺はしぶしぶチョコを受けとる。

心なしか、今年のラッピングは凝っているように見えた。




その日家に帰ってからチョコの包みを開けた。

チョコと一緒にカードが入っているのもいつも通りで、だから俺は、カードを見ずに先にチョコを食べることにした。

「……?」

だがしかし、包みから出てきたチョコを見て違和感を感じた。
ハート型のチョコケーキ。しかも焦げていない。

例年なら失敗作が俺のもとに届くのに。しかもハートなんて生まれて初めてだ。

不思議に思いながらもケーキを一口かじりつく。

甘い。

「……まさか、な……」

ケーキがうまい、ハート型、それだけで自惚れるほどバカではないと自負しているが、俺はチョコと一緒に入っていたカードを手に取る。

『好き』

たった二文字、そうか書かれたそれを握りしめ、俺は隣の家の幼馴染みのもとへと走っていた。


170206