初恋は散りゆく
よく、"川西はいいやつだね"と言われる。悪い気はしないしむしろそう評価されるのは光栄なことだ。
それでもそれは、恋愛においてはマイナスに働くことがほとんどだ。
「霜月、おはよ」
「川西。おはよう。今日も朝練頑張った?」
「おう、上々」
クラスメイトの霜月は、俺と仲のよい友人の一人だ。……仲のよい友人で終わりたくはないと思っているが。
「そういえば川西」
「どうした?」
「これ」
これ。
そう言って渡されたのは可愛らしい封筒だった。どきっと心臓が脈打ち、体がさあっと冷えるのがわかった。これはもしや、ラブレターではないだろうか。しかも霜月からの。
だけどそんな淡い期待はあっけなく砕かれた。
「隣のクラスの女の子に頼まれたんだ。私からじゃないからね?」
「あ……わ、わかってるよ。霜月は友達だろ!」
つい心にもないことを言ってしまい、自分で落ち込んだ。
霜月から手紙を受け取り、俺は自分の席へと歩いた。
霜月は俺にとって初恋だった。なにかで読んだことがある。初恋は実らない方がいいのだと。
結局俺の思いはきっと、霜月に届かずに終わるのだろう。
その日の昼休み、何となくイライラしてしまい俺は一人で中庭に来ていた。
「あれ、川西じゃん」
「げ。霜月かよ」
「げってなにさ。……ラブレター、返事しに行かなくていいの?」
「あー、あれな。あれは放課後だから」
「ふうん」
中庭には小さなベンチがある。霜月はそれに腰かける。俺は中庭の真ん中に立ち尽くし、空をあおいでいた。
「俺に何か用?」
「ううん、別に何もないよ」
何もない、言うわりに霜月は中庭から去ろうとしない。つまりは俺に用があるのはあきらかだった。
もし霜月が今朝のラブレターに嫉妬して俺を探してくれたなら、そんな期待をしている自分もいる。
「あの子、かわいかったよ」
「あの子?」
「うん。ラブレターをくれた子」
だけど霜月はそんなことを言う。
イライラはピークに達した。
「お前は気楽でいいよな」
「川西?」
霜月の目の前まで歩き、見下ろしてにらんだ。霜月は俺を見上げて目をしばたたかせた。
「俺は周りから"いいやつ"呼ばわりされるけど、実際そんなにいいやつじゃないよ」
「なにいってるの。川西はいいやつだよ」
「だって俺、そんなに物わかりよくねえよ!」
苛立ちに任せて霜月の腕をつかみ立ち上がらせる。
もうどうにでもなれ。
俺はそのまま霜月を抱き締めた。抵抗は、されなかった。
「俺は、好きなやつの前ではいいやつなんてやれないし」
「ま、待って」
「お前が俺に興味なくても、そう簡単に諦められるほど大人でもない」
ぎゅうっと腕に力を込めた。今だけ、今だけはこのわがままを許してほしい。嫌われてもいい、今だけは独占していたい。
だけど、腕の中の霜月は、小さく笑いを漏らした。
「霜月、何で笑って……」
「何でって。私も川西を好きだからだよ」
霜月は俺を見上げると、俺の頬に手を当てた。
「川西、そんな顔もできるんだね」
「そ、そんな顔ってどんな顔だよ」
「秘密。顔、真っ赤だよ」
散ったかに見えた初恋が、実を結んだ。
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三周年企画。
川西くんで切甘。
企画参加ありがとうございました!
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