伝えたい言葉

伝えたい言葉



その村は奇っ怪な事件が相次いでいた。

煉獄がその村を訪れたとき、異様な臭いを感じたという。そののち、酷い音が轟いたとも。

村には鬼が住んでいた。だがその鬼は人間に紛れることが巧く、誰もそれを鬼だと認識していなかった。

だが煉獄はそこいらの人間とは訳が違った。彼は何しろ鬼殺隊、鬼を狩ることを生業とする人間だったのだ。その中でも煉獄は、精鋭九人の柱と呼ばれる階級である。

「まさか、そんな」

鬼は何食わぬ顔で人間と暮らしていた。年頃の妹と二人で。
この妹の両親、つまり鬼の両親にも当たるが――は、奇しくもその鬼によって喰い殺されていた。
辛うじて残っていた理性が妹の命を繋いでいたのだ。

とはいえ、兄が鬼だと村中に知れ渡ってしまっては、妹がその村に居続けることは不可能だった。

「あんたのせいよ。お兄ちゃんが死んだのも、お父さんが、お母さんが死んだのも」

妹は名を##NAME1##といった。

「##NAME1##、それでも俺は鬼を切る他に出来ることはない」

「他人事ですもんね。あなたは只の人殺しよ。お兄ちゃんを返して!」

##NAME1##は行き場のない悲しみを煉獄にぶつけた。煉獄はどうしたものかと頭を掻くが、このままこの娘を置いていくわけにはいかないと、ある策を思い付く。

「それならば##NAME1##。俺と一緒に旅をしよう。それで君は、俺の頚を狙え。兄の敵である俺の頚を」

憎しみは確かに生きる糧になる。悲しいことだが、それは自然の理のようなものだ。煉獄は自ら憎まれ役を買って出ることで、少女を救おうとした。



##NAME1##は煉獄の言った通り、毎日毎日煉獄の頚を狙った。敵を討つために。飽きもせず、毎日毎日。

「甘いな」

「この!」

「まだまだだ」

「煩い!」

だが煉獄は伊達に柱と呼ばれているわけではない。##NAME1##は煉獄に到底敵わず、だが##NAME1##は懲りもせずに煉獄に挑むのだ。



そんな日々が何ヵ月も続き、その日は##NAME1##からの不意打ちが一切なかった。

「諦めたのか?」

「そうですね」

「俺は今、油断している」

「初めから分かってました。兄が兄じゃなくなったことも。兄を救うには殺すしかなかったことも」

煉獄は静かに##NAME1##の言葉を聞いた。分かっていても受け入れられないことがあることを、煉獄は誰よりも知っていたからだ。だからこそ、この少女にはこの先を生きる力が必要だとも。

「煉獄さん、ごめんな――」

謝罪など要らなかった。
只ひたすら、この少女の笑う姿を見たかったのだ。

「謝罪は要らん。##NAME1##、今度は鬼殺隊として生きてみないか?」

「私が?」

「君が望むなら、俺が育手を紹介してやろう」

煉獄は##NAME1##の笑顔を初めて見た。

ああ、太陽のようだ。

この後##NAME1##は鬼殺隊に入隊を果たす。

――前を向いて歩き出した君に再び出会えたなら、伝えたい言葉がある。



170609