友のような笑顔

友のような笑顔



千寿郎を部屋に送り届けたついでに、私は杏寿郎の家でお茶をもらうことになった。それから、遅めの夕飯も。
とは言え、杏寿郎は料理があまり得意ではないから、私があり合わせで夕飯を作った。ご飯を炊いて、それから畑でとれた野菜を炒めて、干した魚を焼いた。あとは味噌汁。

「いただきます」

それを食卓に並べれば、杏寿郎は礼儀正しく両手を顔の前に合わせてから箸を持つ。最初に味噌汁を飲んで、そのあとご飯に箸をつけた。

「うまい、うまい!」

「もう、只のあり合わせだよ?」

「そうか? 充分にうまいぞ!」

杏寿郎は昔からよく食べる大食漢で、だから私は沢山お代わりできるようにご飯も野菜炒めも多めに作っておいた。
だけど杏寿郎は私が思っていたよりはるかに大食らいで、あっという間に作り置いたおかずもご飯も平らげてしまった。私はまだ一杯目のご飯を半分しか食べていないというのに。

「杏寿郎って相変わらずよく食べるね」

「ん? そうか?」

「ああ、そうか。会うの久々だからかな。昔よりももっと食いしん坊になってる」

「俺は男だからな!」

男だからとはいっても限度がある。もしかしたら杏寿郎は柱になってより一層体力が必要になったから、だから昔より食べるようになったのだろうか。
まあ、何にしても昔からよく食べる人だったから、深くは考えないでおこう。

「コハルの方は、大分女らしくなったな」

「えっ、ちょ、何急に」

「いや、料理、おばさんまではいかないが、だいぶ上手くなったじゃないか」

「あ、ああ。そういう事ね。まあ、私もいい歳だし」

「コハルは良い奥さんになるな!」

「……!?」

さらっと言われたが、杏寿郎は何を意図してそんなことを言ったのだろうか。いや、杏寿郎に限って言葉に裏の意味を含ませるということはないのは解っている。分かっているが、そういうことを言われて照れない女は居ないと思うのだが。

「コハル、顔が赤いぞ」

「な、何でもないし! あ、私お腹いっぱいだから、ご飯あげようか?」

「いいのか? それじゃあ、いただくとしよう」

茶碗とおかずの乗った皿を杏寿郎の方に差し出せば、杏寿郎はそれを受け取りまたもくもくとご飯を食べだした。
杏寿郎がご飯に夢中になっている間に、私の顔の火照りを何とかしようと思ったのだが、それはなかなか上手くいかなかった。

「ごちそうさま。ん? コハル?」

どうにもならない火照りを冷ますために、私は杏寿郎が食べ終わるのと同時に席を立ち、台所に歩いていた。

「洗い物しちゃうから」

「後でいいだろう」

「い、今やりたいの!」

だって、今杏寿郎と顔をあわせたら、私の顔が赤いことに気づかれてしまうから。
そもそも誰のせいだと思っているのだ。杏寿郎が「いい奥さんになる」なんて変なこと言うから、だから私は動揺しているというのに。

……動揺してる? 何に?

「コハル?」

「洗い物はいいや。後でする」

「そうか」

「それより、せっかく杏寿郎が帰ってきてるから、積もり積もった話をしよう?」

そもそも自分が何に動揺しているのかと考えたら、一気に頭が冷えたのだ。
別に、「結婚しよう」と言われたわけでもないし、「好きだ」と言われたわけでもない。それなのに何で動揺していたのか。

夜の風は心地よく、私たちは空が白むまで話をした。


170606