それは冨岡さんと旅に出てから半年ほど経った頃の事だった。その日は珍しく昼飯を食堂で摂ることになったのだ。
冨岡さんはそこで、鮭大根を頼んでいた。確かに今は鮭の季節で、だから私も同じものを頼んでいた。

そうしていざ出された鮭大根は、とても脂が乗っていて美味しそうだった。思わずお腹の虫が鳴くほどに。

「食い意地……」

「し、仕方ないじゃないですか! お腹の虫なんて不可抗力です!」

冨岡さんは私のお腹の音にぼそりと本音を漏らした。いつもそうだが、この人は本当にぶっきらぼうだ。言い方ってものがあるだろうに。

「いただきます」

私は怒りながらも出された鮭大根に箸をつけた。腹が立つのはお腹が空いているからかもしれないと思い直したのだ。
ほろほろに崩れる鮭には味が染みていて、とても美味しかった。

「美味し、……!」

私が鮭大根に感動したのも一瞬で、私は自分の目を疑った。向かいに座る冨岡さんの顔が笑っていたからだ。鮭大根をもくもく咀嚼するその顔が、一瞬だけ笑っていたのだ。
確かにこの鮭大根は美味しいが、それにしても頬が緩むほど美味しいだろうか。確かに美味しいが。

「何だ?」

「や。あの。えーと」

「言いたいことがあるならはっきりしろ」

「いや。冨岡さんって鮭大根好きなんですか?」

「……」

黙った。
変な質問だったのは自覚している。それに、冨岡さんが好きな食べ物を詮索されて素直に答えるような人間じゃないのも知っている。

だけど、冨岡さんはいつもより柔らかい表情で答えた。

「好物だ」

「へー。て、えっ?」

「何だ? 変か?」

「あ、いえ。そうなんですか……あ、じゃあ今度、私も作りますね」

少しだけ緩んでいた冨岡さんの顔は、いつの間にかいつも通りの無表情に戻っていて、もしかしたらさっきのあれは見間違いなのではと思ってしまう。
それでも、鮭大根を口に運ぶ度にほんの少しだけ冨岡さんの顔が緩むものだから、先程の笑顔が満更見間違いではないのではと思わされた。



久々に椅子に座って食事をして、ゆっくり食後のお茶まで飲めて、私はふう、と息を吐いた。

「疲れたか?」

「いえ」

「……そうか」

冨岡さんの様子が明らかに可笑しい。今日は食堂に寄ったり鮭大根を食べて笑ったりと、今までの冨岡さんの印象ががらりと変わる出来事ばかりだ。

「旅は……慣れたか?」

「え? はい、慣れましたね」

初めの頃より歩ける距離は増えたし、体力もついた。夜になっても一人で待っていられるようになったし、何より冨岡さんの性格を掴めてきた。
この旅で一番苦労したことといったら、冨岡さんとの関係かも知れない。

とは言っても、冨岡さんは出会った頃からひとつも変わっていない。変わったのは私の考え方だ。

「そうか」

「はい」

冨岡さんが何を考えていたのかなんて、私は考えもしなかった。尤も、この人の考えを読める人がいるのかの方が怪しいのだが。


170606