V


「それは涼宮が喧嘩が強いからだろう」

「喧嘩ですか」

私の所属する被服部は普通の文化部とは一味違う。集まる部員は服の作成は当然ながら、料理や華道茶道に行儀作法などに精通した変わり者たち。中でも部長である西園寺 奏は立海の文化部を牛耳る上に先生どころか理事長ですら逆らえない。入部当初、先生方に何をしたのか尋ねたことがあったが、奏先輩はクスリと意味深に笑って。

「俺の家って金持ちだろ。その上学校に結構な額の寄付金寄越してるだろ。だから逆らえないんだよ」

「それ嘘ですよね」

「さぁどうかな」

結局ははぐらかされて教えてはくれなかったけど、お腹の黒い奏先輩のことだからろくでもない手段を使ったのだろう。

「断るのはいいが気を付けろよ華蓮。」

「何がですか」

「テニス部はしつこいぞ〜」

「充分に理解しています」

手元の刺繍を見る。
手を動かしながら回想に浸りながらため息を吐く。

切原君の頼みを一蹴したと思ったら彼らは休み時間の度に教室に現れるようになったからだ。
そして開口一番にマネージャーになれと口を開き、自分たちの用件を言うだけ言って帰っていく。

その繰り返し。

おかげで私は教室では敵意に満ちた視線に晒されるわ友達は離れるわで良い迷惑。

「ファンクラブ(笑)からはもう呼び出しはあったんだろ」

「何気に鼻で笑いましたね」

「いいから教えろよ華蓮ちゃ〜ん」

「返り討ちにしました」

「さすがだな」

私も最初はファンクラブなるものをバカにしていたけど、恋に恋する彼女たちの行動は早かった。
切原君の件のあったその日のうちに私は屋上に呼び出された。

切原君に誘われたからっていい気になるんじゃないわよというのが彼女達の言い分。

「定番!定番だ!!」

奏先輩はお腹を抱えて爆笑した後に作業台に突っ伏した。その肩はまだプルプルと震えている。

「もう、後輩が虐められているのに」

「殴られたのは一発だけだろ」

「そうですけど……」

その後は正当防衛の名の元にボコボコにとっちめました。
それからは表立ったものはなくなったけどその分陰湿な虐めに発展して困っている。

内容?

体操服が無くなったり制服破かれたり、教科書にカッターが仕込まれたりとかですけどね。

地味な虐めにイライラしますが。

「よーし!かわいい後輩のためにこの西園寺 奏様が一肌脱ごうではないか!!」

やめてください。
あなたが張り切ると、ろくなことしか起こりません。
とは言えず黙って出来上がった刺繍を見つめた。

新しい玩具を与えられた子供のような奏先輩とは裏腹に、ほのぼのとした猫の親子の柄が実に虚しかった。

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