その1
4
「ハァ…全く鬱陶しいんだけど。四六時中ベタベタ引っ付くわりにマネージャーの仕事はきっちりこなすしさ。タチ悪いんだけど」
お昼休みのテニス部襲来といい、今日はやたらとトラブルに巻き込まれるな。
私の目の前でいい感じに焼き上がったクッキー(甘さ控え目)を、遠慮の欠片もなく次々と口に放り込んでいくのは、件のテニス部部長の幸村君。
その隣にはデータマンで有名な柳君もいる。そして柳君も私のクッキーをちゃっかり食べている。
「うむ。このクッキーは絶妙な甘さ加減でうまいな」
「はぁ…ありがとうございます」
「おそらくは小麦粉150gに対し大さじ3の割合。どうだ、当たりだろう」
「………」
何故分かる。それに何故にどや顔。
「ねぇ芽衣子、ちゃんと聞いてる!?」
「あ…はい……聞いてます」
「じゃあマネージャーやってよ」
これがデジャウというやつか。
本日2度めの勧誘だねえ。
「レギュラーマネージャーなら宮下さんがいるでしょ」
「ヤダ!芽衣子がいい」
何このだだっ子。
幸村君じゃなきゃ、とっくに外放り出されているよ。
時の流れ早いものであっという間に放課後。
当然ながら私も部活中で今回は定番のアメリカンクッキーに挑戦している。
ちなみに"サックリ"と"しっとり"の2パターンを作ってみた。
焼き上がるそばから幸村君たちの口の中へ消えていくけどね。
「幸村君、前に断ったよ。それに私は料理部の部長してるから無理だよ」
「わかってるけどさー」
そう言うと幸村君は、ぷっくり頬をふくらませて拗ねてみせた。さすが立海屈指の美少年。何をやっても可愛く見える。
……彼の中身が魔王様だと知る人は一体何人いるだろうか。
「どんなに可愛くみせても無理なものは無理」
「そうだぞ精市。あまりわがままを言ったらまた出入り禁止になってしまうぞ」
「…うーん……仕方ないなぁ」
幸村君と柳君は時々こうして調理室に現れる。
そして他愛ない話をしては、お茶菓子を食べて帰っていく。
「2人ともそろそろ時間だよ」
「そうだな。行くか、弦一郎たちがうるさいだろう」
「あいつ等もね。そうだ芽衣子!このクッキー包んでよ」
私は幸村君にバニラクッキーとチョコチップクッキーにマドレーヌをオマケに付けて渡した。
調理室を後にする彼らを見送る。
そう言えば最近…部活への愚痴が増えたな。