その1


「ハァ…全く鬱陶しいんだけど。四六時中ベタベタ引っ付くわりにマネージャーの仕事はきっちりこなすしさ。タチ悪いんだけど」


お昼休みのテニス部襲来といい、今日はやたらとトラブルに巻き込まれるな。

私の目の前でいい感じに焼き上がったクッキー(甘さ控え目)を、遠慮の欠片もなく次々と口に放り込んでいくのは、件のテニス部部長の幸村君。
その隣にはデータマンで有名な柳君もいる。そして柳君も私のクッキーをちゃっかり食べている。


「うむ。このクッキーは絶妙な甘さ加減でうまいな」

「はぁ…ありがとうございます」

「おそらくは小麦粉150gに対し大さじ3の割合。どうだ、当たりだろう」

「………」

何故分かる。それに何故にどや顔。

「ねぇ芽衣子、ちゃんと聞いてる!?」

「あ…はい……聞いてます」

「じゃあマネージャーやってよ」


これがデジャウというやつか。
本日2度めの勧誘だねえ。
「レギュラーマネージャーなら宮下さんがいるでしょ」

「ヤダ!芽衣子がいい」

何このだだっ子。
幸村君じゃなきゃ、とっくに外放り出されているよ。


時の流れ早いものであっという間に放課後。
当然ながら私も部活中で今回は定番のアメリカンクッキーに挑戦している。
ちなみに"サックリ"と"しっとり"の2パターンを作ってみた。
焼き上がるそばから幸村君たちの口の中へ消えていくけどね。


「幸村君、前に断ったよ。それに私は料理部の部長してるから無理だよ」


「わかってるけどさー」


そう言うと幸村君は、ぷっくり頬をふくらませて拗ねてみせた。さすが立海屈指の美少年。何をやっても可愛く見える。
……彼の中身が魔王様だと知る人は一体何人いるだろうか。


「どんなに可愛くみせても無理なものは無理」


「そうだぞ精市。あまりわがままを言ったらまた出入り禁止になってしまうぞ」


「…うーん……仕方ないなぁ」

幸村君と柳君は時々こうして調理室に現れる。
そして他愛ない話をしては、お茶菓子を食べて帰っていく。

「2人ともそろそろ時間だよ」

「そうだな。行くか、弦一郎たちがうるさいだろう」

「あいつ等もね。そうだ芽衣子!このクッキー包んでよ」

私は幸村君にバニラクッキーとチョコチップクッキーにマドレーヌをオマケに付けて渡した。

調理室を後にする彼らを見送る。

そう言えば最近…部活への愚痴が増えたな。

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