鋭利 殺気

久々知 兵助
今日の忍術学園は学園全体でお休み。
蛍ちゃんから聞いたが彼らも昼から休みらしい。当然校庭から彼らの騒ぎ声も聞こえるわけだが、……仕事を放って遊ぶのは納得いかないのだ。まぁ彼らがどうなろうが知ったことじゃないか。
「く……久々知くん。明日のお昼にお勉強…教えてほしいの」
前日、蛍ちゃんにお願いされて、今日は昼から勉強会。
実は2人きりだからかとても楽しみにしていたのだ。
だけど…
「久々知くん。ごめん」
目の前で蛍ちゃんが、すまなさそうに頭を下げている。俺は蛍ちゃんにそんな顔をさせたくないのだ。
周りは邪魔者が3人。
「俺たちも混ぜてにゃーん!!」
「菊丸先輩、大人しくしてて下さい」
「丁度良かった。データだ」
意味分からん。確かこいつら、菊丸、越前、乾?とか言ったか。
蛍ちゃんに向き直ると、疲れたような、どこか諦めたような、複雑な表情。大方嫌がる蛍ちゃんに無理矢理付いて来たってところか。
「みんな遊びに行ってつまんなかったんだにゃー」
くそ!ならお前もどっか行け。
「ちょっ先輩。ちゃんと勉強するって約束…」
「気にすんにゃって!」
いや気にしろよ。
「早速質問させて貰う」
俺は呆れて何も言えなかった。彼らは早いとこ外での生活に、馴染めるようにと蛍ちゃんが毎日、文字の読み書き、金勘定や様々な常識を教え、更には手に職まで付けさせようとしているというのに。…確か空いた時間はその訓練に充てると蛍ちゃんも厳命しているはず。にもかかわらずこの体たらく。
取り敢えず、これでは勉強にならないと判断して、俺は蛍ちゃんを連れて食堂を後にした。
「あの……待って下さい」
越前に呼び止められた。
俺は今機嫌が悪い。
蛍ちゃんや勘ちゃんたちみたく、優しくは出来ない。
「何の用だ?遊びたいなら遊べば…」
「久々知くん。ちょっと待って」
俺の機嫌の悪さを知ってか、蛍ちゃんに止められてしまうが、ここは任せるか。
「越前くん、どうしたの。何か用かな?」
「あの……さっきは騒がしくして、すみませんでした」
越前が帽子を脱いで謝罪してきた。
へいせい、という未来から来たのは、まぁ…百歩譲って信じてもいい。そこがどんなところかは知らないが、そこでは後輩に頭を下げさせるらしいね。
「それって何の謝罪かな?それも越前くんが謝ることじゃないよね」
「でも……」
「私が君達のお世話をするのは忍務だから。君達にこの時代での暮らし方を教え、一刻も早く自立させる」
「俺たちは元の時代に帰……」
「帰れなかったらどうするの!!」
突然の激昂。あのおっとりと大人しい蛍ちゃんが声を荒げることはとても珍しく、周りにも蛍ちゃん特有の殺気が漂い始めた。
越前は殺気を浴びたのは初めてだったのか、すっかり萎縮してしまっている。
…自業自得なのだ。
「久々知くん、ごめんね。いこ」
「あぁ……蛍ちゃん俺の部屋においで。そこで勉強しよう」
「ありがとう久々知くん」
蛍ちゃんの手を引こうとしたとき。
「あぁ…そうだ……」
ピタリと止まり、ゆっくりと越前のほうに振り向く。
蛍ちゃんの闇よりも深く暗い瞳が越前を射抜き、捉えて離さない。
―なんて羨ましい―
蛍ちゃんに殺気をあてられ、あまつさえその瞳に写されるとは。
何から何まで羨ましい。
「越前くん…仏の顔も三度まで……今後も続くようなら、私も君達に対する考えを改めねばなりません。これは警告。帰ってあなたの先輩方にも伝えなさい」
俺たちは5年長屋に向かった。
そこには、顔面蒼白の越前だけが取り残された。
「蛍ちゃんの殺気サイコ〜」
蛍ちゃんの殺気。氷よりも凍てついていて、どんな刃物よりも鋭く、それでいて全てを支配されそうな殺気。
またそれが、俺の加虐心をそそるんだけど。
ガマン出来なくなって、部屋に入ってすぐに蛍ちゃんを抱きしめた。甘い香りが鼻孔をくすぐる。
「久々知くん…お勉強は」
「蛍ちゃん…大好き」
全く噛み合っていない会話をしながら、蛍ちゃんを抱く手を強め、久しぶりにその感触を味わった。
従順な蛍ちゃん。愛してるよ。
「久々知くん苦しいよ{emj_d_0162}」
「ふふふ…蛍ちゃん白くてスベスベ。お豆腐みたい」
俺の歪んだ愛情
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