頑 正義

不和 雷蔵
「蛍ちゃん話しがあるの。三木くんと滝くんも聞いて!」
宮下天女が射撃の訓練場に現れた。後ろに同じ学校の?えっと確か せい?しゅん?学園の人たちを引き連れて。
「……げ」
「チッ」
「宮下さんたちどうしたの?」
三木ヱ門と滝夜叉丸が同時に顔をしかめ、僕の蛍ちゃんが怪訝そうに振り返った。
授業が終わった放課後に運悪く四年ろ組の田村 三木ヱ門と平 滝夜叉丸の自慢合戦に遭遇し、これまた不運にも宮下さんたちに捕まったのだろう。
天女擬きが僕の大事な大っ事な蛍ちゃんの両肩を握る。
彼女は血気盛んに蛍ちゃんに語った。
「命というものはね、どんな人でもとっても大切なの。だからどんな理由があったとしても奪っちゃ駄目。」
「…み……宮下さん。私たちはそんな無闇には…」
「蛍ちゃん、理由はどうあれ罪は認めないと」
天女改め宮下 愛子が学園に来た夜。僕と三郎は2人で屋根裏に忍び込み、彼らの動向を探った。最も得た情報はわざわざ忍び込むほどのものじゃなかったんだけどね。要は僕の予想通りのもので、そして彼らの行動は予想と想像を超えて速かった。なにより彼らには彼らなりの正義があり、僕たちにはその正義と相対する夢がある。
ただそれだけのこと。
……分かりにくいかな。
僕たちは忍術学園の生徒で、将来立派な忍者になるために日々勉学と修行、鍛練に励む。その中には当然人を殺める術も含まれる。
宮下さんたちがやろうとしていることは僕たちの将来を潰すもので、学園の生徒には彼らの大演説に耳を貸す者などただの1人もいない。
現に自信家である四年生2人は白けた目で宮下さんたちを見ている。
「手塚さん。あなたはどう思われますか」
「やはり気付いていたか」
「当たり前です」
木の影からずっとこちらを伺う気配を感じていた。素人の隠れる気配なんてすぐに分かるよ。一年生じゃあるまいし。
僕は揉め事の中心を指差し、手塚さんに問う。近い将来僕たちが辿るであろう末路と君たちの金平糖より甘い欺瞞を。
「……我々の時代では殺人は重罪だ。場合によっては犯した者は死んでその罪を償わなければならない。だがこの時代ではそれがまかり通る」
「別に全部通るわけじゃないよ」
手塚さんは苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。聡明な手塚さんにはわかっているのだろう。自分たちの時代とココは決定的にチガウことを。学園から出れば自力では生きてはいけないことも。
「……だが」
「"郷に入っては郷に従え"という言葉はご存知ですか」
手塚さんは黙りこんだまま動かない。
ゆっくりと元凶たちを指差す。
「どうなっても知らないよ」
これは警告。
このまま無下に殺されるのは可哀想だしね。せめてもの慈悲ってやつ。
「もう少し時間をくれないか」
やれやれ、どれだけ平和なところにいたか知らないけど、ちょっとは危機感というものを持ってほしいな。
僕はともかく、他の人はそこまで気が長くない。
特に独占欲の強い兵助や蛍ちゃんの直属の先輩である食満先輩あたり過激な行動に出そう。
「気になっていたがお前たちと月城 蛍はどんな関係だ」
「え?愛でてるだけだよ」
何故か哀れむ顔をされた。だって蛍ちゃんは誰にも取られたくないんだ。
「………哀れだな」
手塚さんはそう呟くと宮下さんたちと合流し、何故か演説に加わった。
慈悲が無駄になった瞬間だった。
とりあえず僕も蛍ちゃんと合流しようと思う。蛍ちゃんは涙目で僕に助けを求めてきた。
「不破くんどうしよう。三木ヱ門くんと滝夜叉丸くんが…」
三木ヱ門はゆり子を、滝夜叉丸は千輪をそれぞれ彼らに向け、それを蛍ちゃんが必死で止めている。
「離して下さい蛍先輩!一発見舞ってやらないと気がすみません」
「そうですとも!!この滝夜叉丸、ここまで虚仮にされたのは初めてです」
「それは駄目」
困っている蛍ちゃんも可愛いな。
宮下さんは両手を広げ、空を仰いだ。
「人は平等に生きる権利があるわ」
宮下さんは仰々しく語り始める。
蛍ちゃんのため息が空に消え、その目はどこか遠くを見ていた。
不毛で頑なな正義は拳となって降り下ろされる。
少女は保健委員会よりも不運
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