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チーシャンの領主、ジャミルとその奴隷によってアラジンを捕らえられたアリババは、アラジンを助け出すタイミングを探っていた。道中でジャミルがトラン語を完全に会得していないことが分かると、それを利用してジャミルの目を騙して迷宮の正しい道へと進む。

―――領主は俺が死んだと思うはず。どうにか道を見つけてアラジンを助け出さなきゃならねえ! それに、ハルだって合流しねえと・・・・・・。あいつらと鉢合わせしたら・・・・・・鉢合わせしたら・・・・・・いや、ハルなら勝てそうな気もするけど!


それからアリババは道の先で大きな扉を見つけた。人間一人の力では絶対に開かないであろう石の扉。これがトラン語で記されていた「真実」への扉なのだろう。無意味と分かっていても強引に押してみる。体重をかけてみても石の扉はぴくりとも動かなかった。ならまずは戻って、アラジンとハルを探そう。

そう判断して振り返ったアリババが見たものは、馬と一緒にこちらを見ているハルの姿だった。しばらく固まり、たくさんのことを考えてから叫ぶ。自分がここに辿りついた道順を。高い位置から落とされ、地面には針山。その間には避けきれずに死んだであろう挑戦者の骨。人間でさえ生還する見込みは薄いというのに―――。

「馬どうやって降りたんだよ!!」











アリババの叫びも届かない場所で、アラジンはモルジアナと二人で話をしていた。ジャミルともう一人の奴隷、ゴルタスは迷宮の先を間違っているルートとも知らずに進んでいる。アラジンの監視を命令されたモルジアナは、直立してアラジンの言葉に耳を傾けていた。

本当は話すつもりなんて無かったのに、アラジンが領主のモノマネをして笑わせたせいで、気が抜けてしまったのだ。こんな場所で、人の死を間近で見たばかりだというのに笑みを浮かべてしまっていたモルジアナは、慌てて口を抑える。

アラジンはモルジアナを笑わせることが出来たことを純粋に喜び、その顔立ちが変わったものだということに気がついた。ジャミルが言っていた「暗黒大陸」について尋ねてみると、モルジアナはむすっと顔を曇らせてから口を開いた。

「暗黒大陸は、レーム帝国南方属州以南は未開発だ、という意味で付けられた・・・・・・私の故郷カタルゴの蔑称です。・・・・・・やめてください」

未開発なのかいと聞いたアラジンの言葉に、モルジアナは気づいたらムキになって言い返していた。未開発なんかじゃない。国もあって村もあって、太陽は綺麗で大地は広く、大きな動物も美味しい果物もたくさんある場所なのだと。モルジアナの頭の中にはイメージがあった。きらきらと照らす日の光、緑の匂い、人が居て、自分は一人ではなくて、そこはとても暖かい場所―――


楽しそうな場所だねと笑うアラジンに、モルジアナは返す言葉が出てこなかった。そう、きっとそうだ。楽しい場所なのだ。そしてとても美しい場所。私はあまり、覚えてはいないけれど。ぎゅっと自身の手を掴んでいたモルジアナは、ほとんど忘れてしまった両親の手の温度を、必死に思い出そうとしていた。