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淡々としたシンドバッドの言葉に、自然と全員が耳を寄せる。
強い意思を感じさせる琥珀色の瞳に目を奪われた。

「そもそも、君たちの戦いの終わりはなんだ?」

霧の団が戦いを続けていた理由はなぜか。
貧しさを抜け出すこと。守るべき家族を養うこと。

ここに居るものが全員崇高な目的を持っていたわけではないかもしれない。全員がバラバラの目的を持ち、その達成のために盗賊まがいの方法しかしてこなかった者たちが今日、初めてバルバッドの国王と正面から話を持ちかけた。

「お前たちは、自分を虐げるものと・・・・・・
今日、やっと初めて! 正々堂々と戦ったんだろう!?」

力強く叩きつけるようなシンドバッドの叫びが、聞いている者の胸を振るわせる。崩れかけていたなにかが再び立て直るような感覚。体の中心に湧き上がってくる熱情。

「自分が剣を取った理由を思い出せ! 忘れるな!」
「・・・・・・」
「それでも、今日こんなもので終わりだと思う奴が、この場に一人でもいるのか!?」

シンドバッドの言葉を聞いて、不安に押しつぶされそうな表情をしている人間はひとりも居なかった。自身にぶつけられる鋭い眼差しに、シンドバッドは満足そうに頷く。

戦う意思が残っているのなら、自分の力を貸そう。
どんな敵が現れても退けよう。
国から追われようものなら、シンドリアに受け入れよう。

「世界はまだ、理不尽さで溢れている。それと戦うものたちを受け入れる。
ーーーそのために、俺は国を作ったのだからな」




未来への希望を抱き、再び立ち上がった者たちの表情は明るい。ハルが安心したように胸を撫で下ろしていると、アリババが横へやってきた。その顔は晴れやかとは言い難いもので、アリババの心中を察しながらもハルは言葉を待つ。

「さっき言いかけてた、次の手ってなんだ?」

ハルがその問いに答えるより前に、広場が騒然とし始めた。ハルとアリババは揃って顔を見合わせてから、あたりを見渡す。二人の目には霧の団のメンバーが皆、空を仰ぎ指を指して口々に何かを言っている光景が映った。

アリババが指の先に視線を向けるよりも前に、明るい声があたりに響く。

「おーい、シンドバッドー!!」

空を飛ぶ絨毯の上から、こちらを見下ろすその姿に、アリババは見覚えがあった。バルバッドの王宮に現れた、煌帝国の人間。どうしてここに。なんの用があってーーー。

アリババが狼狽えるその横で、ハルは時が止まったように硬直していた。
微動だにしないハルの口から、小さな、誰の耳にも届かない程かすかな声がこぼれ落ちる。


「・・・・・・―――ジュダル?」


冷ややかな笑みを浮かべた青年は、シンドバッドを真っ直ぐに見ていた。