運命論なんてくそくらえ

勝己に「轟くんは私が殴る」宣言して、その宣言が果たされる日はめちゃくちゃ早く訪れた。というかその日に訪れた。

勝己に送ってもらって、雨に濡れずに家に無事に辿り着くことができた私だけど家に辿り着いてから冷蔵庫の中に何も無いことに気付いてしまった。
だから仕方なく近くのコンビニで何か買おうと思って傘を差してコンビニに向かったのだけれど。

まさかのそこで遭遇したのだ。


「なにしてんの!?」
「お?」


いや、「お?」じゃねぇ!!
リアクション薄いな!!
てゆーかなんで私が行く先に毎回高確率で居るんだよこの人!!!


「また会ったな」
「いや、そんな偶然出会ったみたいな言い方やめて」
「それもそうだな」
「やっと認めますか」
「ここまで来れば運命な気がしちまう」
「絶対違うからっ!」


やっと自分が故意的に行動してるんだと白状するのかと思ったら何頬の色染めてんのこの人!


「偶然も重なれば必然って言うじゃねーか」
「だとしてもその言葉を使わないでほしい」
「これはもう運命感じていいと思うぞ」
「嫌だよ」
「偶然なんて言葉で片付けるべきじゃねぇ」
「いや、バイト先に関してはあなた知ってただろ!」
「まさかカウンターに居るなんて思わねぇだろ、もう認めろよ」
「何を!?」


勝手に運命感じてる轟くん。
残念だけど運命どころか、あまりに頻繁過ぎる出会いにドン引きしてるよ私。
轟くんに対して運命感じたことないんだよ。
次会ったら殴り飛ばそうと思ったのに、あまりにインパクトの強い遭遇を果たしてしまったため呆気にとられてそれどころじゃない。


「何買うんだ」
「何でもいいでしょ」
「飯とか言うなよ」
「偶然だとしてもその言葉のチョイス怖い」


ご飯買いに来たから轟くんにそれを当てられると、真面目に怖さを感じてしまう。
これこそ偶然だと祈りたいよ私。


「カップ麺買うとかも無しな」
「ちょっと黙っててもらえますか」


コンビニ弁当はご飯がパサパサだから苦手なので、カップ麺でも買おうかなって今思ってたところなんですけど!?
え?なに?怖いよこの人。


「いちいち当てないでください」
「やっぱりか。運命だな」
「違うって」


運命感じるのはやめてくれ。


「ちなみにあなたはなんでコンビニにいるんですか」
「俺も飯買いに来た」
「…」
「お前も飯買いに来たなんてな…」
「いや、なんで嬉しそうなの」


別に普通のことじゃないのか、コンビニにご飯買いに来るなんて。
そんな嬉しそうな顔をする程のことでもないだろう、と呆れる私。


「お前、緑谷と仲直りできたのか?」
「…」
「?」


とりあえずお互いに自分が食べる物を持ってレジに並んだのだけれど、彼から投げられた質問に答えようか少し悩んだ。


「…関係ないでしょ」


結果、ぶっきらぼうに冷たい言葉を返す他浮かばなくて私は視線を下にしたままぼやいた。
しかし彼は冷たい言い方などあまり気にしていないかのように「…そうか」と返事をするだけで、それ以上深入りはしてこなかった。


「緑谷の奴が元気なかったぞ」
「…」
「何が理由か俺にはわからねぇけど、仲直りして」
「関係ないって言ってるでしょ!」


だいたい、出久とこんなことになってしまったのは全部轟くんが悪いんじゃないか。
轟くんが私の目の前に現れるから、だから出久に助けを求めてしまったんだ。
出久の気持ちに気付いてしまったんだ。


「轟くんのせいで出久とうまくいかないんだよ」


レジで会計を済ませ、私は彼の言葉を待つことなくコンビニを飛び出した。
苛立ちが勝って仕方ない。
勝己に言った通り一発殴っときゃよかったって、今更後悔するけど、もう戻ろうなんて思えなかった。
わざわざ戻って殴ったって気が済まない。

そう、いくら殴ったって気が済む話じゃない。
でも、むしゃくしゃして腹が立って。
うまくいかないことが腹立たしく思えて、だから彼に八つ当たりしたら少しはマシになると思ってたのに。


「…っ、なんで私あんなこと言ったんだろ」


何故か後悔していた。
ズカズカと家までの道を歩きながら、私は先程自分が彼に言ったことを後悔していた。
なんで後悔してるのか、自分でもわからなかった。

気持ちが落ち着いてきてから、自分が傘を忘れて雨に射たれてることに気付く。


「なにやってんだろ、私…」
「まったくだな」
「!」


背後から声がして、私は思わず振り返る。
そこにいたのは、傘を差した轟くんだった。

驚くどころの騒ぎじゃなかった。
何故彼がここにいるのか、というかなんでわざわざ追い掛けて来たのか私には理解出来なかったから。


「なんで、」
「傘」
「はい?」
「お前傘忘れてってるぞ」
「………」


いやいや、え?あの……私あなたに酷い当たり方したはずなんですが……。
なんでそんな真顔で平然と私の傘届けてくださったのでございますか。
ちょっと待って状況が飲み込めない。
拍子抜けする私をどうか許してください。


「なんで……、傘なんて放っておけばいいのに」
「濡れちまうだろ」
「いやもう濡れてるんで」
「風邪引くぞ」
「…関係ないでしょ」


そうだ。関係ない。
彼には関係のない話なはずなんだ。
私が風邪引いても、傘を忘れても。


「…バイトの奴等が迷惑だろ」
「!」
「仕事休まれたら、その分迷惑掛けちまうだろ」


その言葉が本心ではないと、すぐにわかった。
感情のない表情をしているからこそ、逆に分かりやすく感じてしまった。
この人はこんなにも単純で、純粋でばか正直なんだと…、そう思った途端に笑いが込み上げてくる。


「フフ…ハハハッ」
「?」
「轟く…分かりやすすぎ…アハハ!」
「そうか?」


彼とは深い接触したわけでも、仲が良いわけでもない。所詮他人同士の関係性だ。
なのにわかってしまう。
彼はそんなに悪い人ではないのだと。
故意的に悪事をするようなずる賢い人ではないのだと。
不器用ながらも相手を想い、そして口下手ながらも相手を傷付けたりしない。
そんな心優しい人なんだと、なんとなく思った。


「傘、ありがとう」
「風邪引くなよ」
「帰って温かくして寝るよ」


だから、君を殴る計画は先延ばしにしてあげる。


「轟くんは私の名前、知ってる?」
「ああ」
「なのに呼ばないなんて、変なところで気を遣うんだね」
「お前と俺は他人だからな」


そう、私と彼は他人同士。
だから深入りなんてされたくないし、する気もない。だけどそれは今までのこと。


「偶然も重なれば必然になる、か」


確かに、こんなにもお互いに関わるようじゃ他人にはもう戻れないかもね。


「運命に感謝しなよ、轟くん」
「?」
「私の名前、呼んでもいいよ」
「!」


仕方ないから許してあげる。