小さな一歩を踏み出そう



久しぶりに夢を見た。
あまり夢を見たことがない私だけど、何故かその日は夢を見た。

そこには小さな頃の私がいて、新しい傘を買ってもらって雨の日にはしゃいでいる姿があった。
公園の中に入った私は、普段はたくさんの子に人気のブランコ等が雨のせいで誰も乗っていないのを見てテンションが上がっていた。

傘を持って1人ではしゃぐ私。


「?」


雨が降ってる公園の遊具の中で、雨宿りするというより何かに怯えるかのように体を小さくして踞っている誰かが居ることに気付いて駆け寄る私。


「どーしたの?」
「!」
「おうちかえらないの?さむくない?」


その子は右目を怪我しているのか、顔の右側に包帯を巻いていた。
それ以外の情報はなくて、どんな表情をしているのかわからない。

ただ、その子は泣いていたような気がした。


「…かえりたく、ない」
「だめだよ!おねつでちゃうよ?おかあさんは?」
「…っ」


この子は誰なんだろう、ただの夢なはずなのに私は気になって仕方なかった。
何とか顔を見ようとするけど、まったく見えない。


「かんけいない、でしょ…」


拒絶するかのように目を逸らして、さらに奥へ行こうとする彼の服を掴んで、私は止めていた。

夢なのに、まるで現実みたいにリアルだった。
私はその子のことが放っておけなくて、遊具の奥へ逃げようとするその子を止めていた。


「きっと、おかあさんしんぱいしてるよ!」
「!」
「だからかえろうよ!わたしのかさあげるから!」


買ってもらったばかりの真新しい傘を彼へ差し出して、私は彼を強引に引っ張っていた。

よく考えてみたら、よく知らない子にこんなことできるな私って感心してしまう。
だけど何故か、この時の私はこの子をそのままにできなくて、さっきまで喜んでいた傘を容易く手放してしまう程に必死だった。


「……、かさ」
「?」
「あたらしいよ?」
「べ、べつにいいよ!あげる!!」


傘を見上げてまだ新しいのだと気付いたらしく、そのまま私の顔を見て首を傾げるその子に強がっていた。
そしたらその子はクスクスと可笑しそうに笑って呟いたんだ。


「ありがとう…」


ああ、やっぱり顔が見えない。
この子は誰なんだろうか……。
ただの夢なはずなのに、私はそんな疑問を抱えていた。

あの夢の子はいったい、どんな顔をしているんだろうか……。
もしかして、あの子が…、





『name聞こえてる?』
「はぇ!?ごめん聞いてなかった!」
『いやだからさ、今日空いてる?』


夢を見て朝起きた私の元に一本の電話が入った。
寝起きだし夢も気になっていたせいで上の空になっていたが、よく考えてみたら私今出久と電話中だった。
現実に引き戻され、私は慌てて謝る。


「今日?」
『うん、バイトとか大丈夫なら一緒に出掛けないかなって…その、変な意味じゃなくてただ遊ぶみたいな軽い気持ちで、さ』


出久とはあの告白以来連絡を取ってなかったから、今日電話があって、しかもそんな誘いがあるなんて思ってもなくて吃驚した。
本当は誰よりも気まずくて緊張してるはずなのに、意識してないような口振りで言葉を選んでる出久。


「いいの?」
『…』
「私なんかと、その……出掛けても」


私は出久を傷付けたし、酷いことをした。
勝己も出久が落ち込んでるって言ってたし、だからこそ連絡してくるなんて思ってなくて。


『…このままじゃ駄目な気がしたんだ』
「!」
『僕がもっと頑張って、君を振り向かせなきゃ駄目だって…そう思った』


『それ以上に、今の関係を崩したくない』というか細い声に、私も同じ気持ちだと心で共感する。
だから私は、出久の気持ちを無駄にしたくなくて頷いた。


「いいよ」
『!』
「一緒に遊ぼう!」
『ほ、ほんとにいいの?』
「私も出久と同じ気持ちだから」
『!』


私もちゃんと向き合わなきゃいけない。
これを機に、出久ともちゃんと向き合おう。


「このままじゃ、駄目だよね」


出久のおかげで私は一歩を踏み出せる。


「だから私も、出久の気持ちと向き合わせて」


いつまでも否定して、逃げたままだと私達はお互いのためにもならないだろうから。
だから今日、ここで、互いに一歩を踏み出そう。


『…ありがとう、name』
「こちらこそ」


君は私の大切な人には変わりないのだから。