質問したはずなのに、その質問を返すなんて狡いなって思ったけどそれを口にしたらまた暴言が返ってくるだけだと直感した。
「…なんで私」
「答えろや」
ほら、強引だ。
どんだけ答えたくないんだよ。
「…いるわけないじゃん」
「へー」
「あのさ、さすがの私も怒るよ」
「てっきりクソナードが好きなのかと思ったぜ」
勝己の口からそんな言葉を聞いてしまって、思わず足が止まってしまう。
勝己は私が止まった場所より少し先を歩いた場所で立ち止まった。
若干雨に当たっているが、そんなこと気にならなかった。
少し驚いたが、何事もなかったみたいにまた足を進めて勝己の持つ傘の中へ平然と戻る。
「…なんでそー思ったの?」
「お前昔からクソナードと仲良かったじゃねーか」
「勝己とも仲良かったでしょー」
「ハッ、よく言うぜクソ女」
幼馴染である私でさえクソ女扱いですか。
わざとらしく鼻で笑って、挑発するみたいな言葉ばかり並べちゃって。
私がそんな挑発に乗るわけない。
「…私、別に出久のこと好きじゃないし」
恥ずかしくて誤魔化すように勝己にぼやく。
好きだけど、それは友達としてだ。
でもそれを言ったって勝己はわかってくれない気がした。
「ほお、お前コクられたんじゃねーのか?」
「そ、そんなわけないじゃん」
嘲笑う勝己に冷や汗が先程から止まらない。
「クソナードの野郎がクソうぜぇくらいに落ち込んでてイライラしてんだよ」
「だ、だからって私が理由とは限らないでしょ」
なんなのさっきから。
「あいつがあそこまで落ち込むところなんて2回しか見たことねぇからな」
「なにそれ、」
「1つは無個性だってわかった時だ」
「もう1つは?」
「お前があいつとしょうもねぇ喧嘩した時」
流すように私を見下ろす勝己の視線は、まるで迷惑を浴びせられてる被害者そのものだった。
昔確かに出久と喧嘩したことある。
あの時は確か一方的に私がムカついて帰っちゃったんだっけ。
喧嘩した理由は忘れたけど、勝己の言う通りしょうもない理由だったのは確かだ。
あの時は暫くして、何故か勝己が出久と私の間に入って「仲直りしろ」ってすごい剣幕で言ってきたからお互いにビビって仲直りしたんだっけ。
「俺ぁお前等の仲裁役じゃねぇんだよ」
「私達の間に勝己に入れたら確実に殺される」
「よくわかってんじゃねーか」
わかるも何も、あなたが仲裁役なんてするような人柄じゃないのは私と出久が一番わかってるんだよ。
「お前等の間で何があろうが俺には関係ねぇし興味もねぇ」
「だろうね」
「でもな、俺がイラつくようなことしたら話は別だぁ」
突然声が低くなったと思ったら、私の鞄を持つ腕がバチバチ鳴った気がした。
ちょ、待って待って爆豪くんそれは駄目だ。
「タイム勝己!お、落ち着いて!その中には私の財布が」
「お前あいつのことフったんか」
「違うって!考えさせてって言ったの!」
「やっぱコクられてんじゃねーか」
まんまと口車に乗せられた。
出久とのことを勝己に知られたくないわけじゃないけど、知られたいわけでもない。
強引なやり方をする勝己には、自分のペースなんて最初から通用するわけなかった。
勝己の腕の中に鞄があったら燃やされてしまう!
手を伸ばして奪い返そうとしたけど、無論容易く交わされて泣きたくなった。
「クソナードの野郎がわけわからんこと言ってやがったがどーいう意味だ」
「わけわからんことってなに!?」
「利用してくれた方が楽だとかなんとか」
「いやそれはね勝己くん、話せば長くな…やめてやめてやめて燃やさないで話すからぁ!!」
私その鞄の中にあるお金しか持ってないんだよ!
貯金もうないんだよ!だからやめてお願い!
話すから!話しますから!
必死に訴える私の言葉がやっと通じたのか、腕を下げて黙った勝己。
私が話すのを待っている様子だ。
だから私は仕方なく話したんだ。
「──は?お前半分野郎にストーカーされてんか」
「半分野郎って…」
確かに髪色が半分に分かれてるけども。
ネーミングセンス無いな!
というか、勝己も知ってるってことは雄英の生徒さんなのかな……?
だとしたら2人が知ってても可笑しくない。
「はっきり言ってやりゃいいだろ、あの野郎に迷惑だ消えろって」
「……」
私も一度は言おうって思った。
だけど何故か、言えなかった。
その後に轟くんが見せた嬉しそうな顔が、いまだに私は頭に残ってて何だかモヤモヤする。
私が言葉に詰まって何も言えないでいると、隣から雨音に紛れてため息が聞こえた。
「グダグダしてんじゃねぇよめんどくせぇ」
「私だってはっきりさせたいっての」
でも、はっきりさせるには私の中での彼の情報があまりにも少なすぎる。
出久のこともあるから尚更はっきりさせなくちゃいけないのはわかってるつもりなんだけど……。
「ねえ勝己、私どーすればいいの」
「知るか」
「だよね」
こういう事に首を突っ込みたがらない勝己だからこそ、深入りしてこないで冷たい言葉を吐き捨てるんだろうけど、これが彼なりの接し方なんだ。
勝己は昔から暴言ばかりで、女の子だからって贔屓するようなことはなかった。
でも、そんな勝己だから私は今でもこうして仲良く居られるんだと思うと感謝しかない。
「とりあえずあの半分野郎は俺が殴り飛ばす」
「いや、私が殴り飛ばすから駄目」
「あ?」
「迷惑してるのは私だから勝己に奪われたくない」
「…」
別に誰が殴っても関係ないかもしれない。
なんなら勝己が殴った方が威力はあるだろうし、私よりも力強い勝己に任せた方がいいかもしれない。
しかし、それは一般的な考え方だ。
私だってあの人のおかげでむしゃくしゃして仕方ないんだから、一発殴らなきゃ気が済まない。
「……そーかよ」
「うん、だから勝己は外野に居て」
「へいへい」
「出久のことも、ちゃんと何とかするから」
出久にはちゃんと伝えなきゃいけない。
このままじゃお互いに前に進めないままだ。
轟くんのことも、ちゃんとしなきゃ。
いつまでも被害者面してられない。
これは私の問題だから。
「さっさと片付けろよ」
「うん!任せて!」
「傘くらいなら仕方ねぇからいつでも差してやんよ」
「!」
挑発するように笑う勝己。
私はその言葉にクスリと笑ってみせた。
「ちゃんとその時も荷物持ってね」
「甘えんじゃねぇよ」
「とか言って勝己は持ってくれるもんね」
「あんま調子乗ってっとぶっ殺すぞ」
「またすぐそう言う!」
「でも、ありがとう。元気出た」と告げればほら、タイミングよく家に辿り着いた。
私は傘から出て勝己に手を振りながら「またなんかお礼するぅ!」と言い残して部屋の中へ入った。
「…世話の焼ける女、」
ため息する勝己がいたなんてことは、もちろん知らない。