まるで忠実な紳士のようだ

出久の気持ちを知った。
今まで知らなかった幼馴染の気持ち。
自分が招いたことなのに、私は戸惑ってしまった。

まともな返事もできないまま、私は出久に「考えさせて」という言葉をやっとの思いで吐き出したんだ。

出久は笑ってた。
馬鹿な私を怒るわけでも、呆れるわけでもなく、ただ優しく微笑んでた。







私は、どーすればいいんだろうか…。


「──はぁ、」
「お?」


間の抜けた声と共に店の扉が開いて鈴が鳴る。誰もいないからって気を抜いてたら来客が来てしまい、背筋を伸ばして接客の体制になる。

だがしかし、私は来客の顔を見て吹き出しそうになった。
最近何かとよく見る顔がそこにあった。
やっぱりこの人ストーカーだろって叫びたい。


「あの、なんでバイト先にいるんですか」
「?ケーキ買いに来ただけだぞ」
「またもや偶然!?」


どんだけ偶然が重なるんだよってくらいこの人と出会うことがかなり増えた。
そりゃストーカーだと思ってしまうだろう。

ケーキ屋さんでバイトをしている私。
昨日は何かといろんな事が一杯起きて大変だったけど、さすがに2日連続では休めないから今日は出勤したのだけれど、まさかこんな場所でまた出会うなんて思ってもなかった。
だからこそ、こんな場所にケーキを買いに来る轟くんという人に疑いしか持てない。


「なんでこのケーキ屋選んだんですか…」
「この近所じゃここくらいだろケーキ屋」
「…ちなみに私がここで働いてるの、知ってましたか?」
「?ああ」
「ストーカー!!」
「は?」


仕事中にも関わらずストーカーだと叫んだ私に、「お前なに言ってんだ」という顔をする彼。


「あなたやっぱりストーカーじゃないですか!」
「なんの話だ。俺がストーカーなんかするわけねぇだろ、俺はヒーローだ」
「余計信じられない!!」


ストーカーを否定して自分をヒーローだと言う目の前の男に思わず意義してしまうくらい、彼はツッコミどころが満載だった。

ヒーローがストーカーまがいなことするわけないだろって言いたいけど、彼はストーカーしてるという感覚がないみたい。
さすがに自覚ないのは凄いよ。
偶然にしたって出来すぎだよ。

彼の何が凄いって、普通ならストーカーと思われても可笑しくないはずなのに彼の偶然はあまりにも説得力がありすぎてストーカーだと確定できないところ。
…まあ、ヒーローなのかはわからんけど。


「nameちゃんどーしたの?ストーカーって」
「え!?いや!何もないです!」
「ほんとに?」


奥でケーキを作ってる先輩がこちらの騒ぎを耳にして顔を出してくれたが、私は助けを求めることはせずに大丈夫だと言ってしまった。

迷惑してるのに何故言わなかったのだろう…、自分の言葉に疑問を抱きながらも表には出さなかった。

まだ何か言いたそうな顔をしながらも、お客さんである轟くんに笑顔で会釈し、先輩は奥へと戻った。


「…なあ」
「なんですか」
「俺がストーカーだと思ってんなら、なんでさっきあいつに助けを求めなかったんだ?」


嫌な質問をしてくる彼には心底呆れてしまう。
もし私が助けを求めたとして、困るのは自分自身なくせに。


「じゃあ逆にあなたこそどーなんですか」
「俺?」
「私が誰かに助けを求めたとして、困るのは自分じゃないんですか」
「?それ以上にお前が困ってるんじゃないのか」
「いや……」


確かにそーだけど!!
なんかこの人と話すと調子が狂わされる!
なんでそんな合理的なんだよこの人!!
もっと焦ったり動揺したりしてくれたら私だって世間一般的なやり方で対処できる。
だけどこの人はあまりにも、当たり前なことを言うようにして平然と、そして真っ直ぐとした揺るがない瞳で私を見るからに余計に私が困るんだ。


「私が死ねって言ったら死ぬんですかあなたは」
「死ぬわけねぇだろ」


不服しかないから子供みたいな言葉を投げた。
これじゃあまるっきり私が子供みたいだ。


「でも、お前が俺に死んでほしい程嫌だと思ってんなら消える」
「…」
「もうお前の前には現れない」
「……」


ほら、本当に調子が狂わされる。
真っ直ぐ過ぎて、揺るがなさすぎて。


「……思ってません」


だから私もこんな不貞腐れてしまう。


「…そうか」


そんな嬉しそうな顔をするんじゃないよ!
本当にこの人相手だと調子が狂って仕方ない。
ため息が出てしまうことくらい許してくれ。