もう1人の幼馴染

苺の乗ったショートケーキやチーズケーキ、チョコレートケーキ等を選んで購入した彼は、そのまま私の働く店を後にした。
ケーキ屋なんて普段の日にお客さんは滅多に来ないが、お客さんとして現れた彼には本当に吃驚した。
まさか来ると思ってなかったし、絶対ケーキとか食べないと思ってたから。
でもそれは私の偏見だから、意見できない。

彼が帰った後からまた訪れた暇な時間は、私のバイト終了時間まで続いた。

その時間を使って彼について考えてみたけど、私には彼の言うような子供の頃に出会った記憶がない。
覚えてないだけにしても、思い出したい。
そーすれば彼のことを少しくらいはわかってあげることができるかもしれない。

だけど無理だ。まったく思い出せない。
あんな目立つ容姿を子供の頃からしていたら気付くはずだし覚えてると思うんだけどな……。

私は彼に何かしたのだろうか?


「nameちゃんお疲れ」
「お疲れさまです、お先に失礼します」
「明日もよろしくね。身体には気をつけて」
「ありがとうございます!」


私服に着替えて帰ろうとした私に気遣いの言葉を投げてくれる先輩に頭を下げて店を出た。

一息吐いて帰宅しようとしたけど、外は雨がパラパラと降っていた。


「雨かぁ…ついてないな……」


朝は晴れてたから傘を持ってきていなかった。天気予報も観てなかったし、迂闊だった。

まあしかしこれくらいの雨なら傘なんて無くても帰れるかなって内心で覚悟を決めた時だ。


「お前なにやってんだ」
「?あ、勝己!」


ナイスタイミングで傘を差して私の目の前に現れたのは出久同様、私の幼馴染である爆豪勝己。
部屋着かと疑いたくなるくらい弛い格好をしてるし、しかもサンダルの勝己。


「なにしてるの」
「親にパシられて買い出ししてたんだよ」
「ねえ勝己!傘入れて!」
「あ?んなもん知るか狭ぇ」
「お願いだよぉ!」


やっぱり出久と違ってケチ臭い勝己。
しかしそれは幼い頃から変わらない彼の一部分でもあるので、私は苦笑い気味に食い下がるしかない。


「今上がりかてめぇ」
「うん」
「なんで傘持って来ねんだ」
「天気予報見てなくて」


途端、雨音に負けないくらい盛大に大きな舌打ちが聞こえた。
わざとらしい大きな舌打ちは、ちゃっかり私の耳にも届いているが、その舌打ちは嫌味に受け取らずに私はポジティブに受け取ることにする。
きっと、ぶっきらぼうな彼なりの承知の態度なのだろう、と私は傘へ入り込んだ。


「狭ぇんだよ!もっとそっち行けやクソが!!」
「ちょっ、濡れちゃうじゃんか!」
「勝手に濡れろ!」
「ひどい!」


一応は入れてくれたくせに狭いだの文句言って挙げ句の果てには濡れろとか酷い以上の何物でもない。
濡れて帰らずに済むと思ったけど、もしかして濡れて帰った方がまだ良かったんじゃないのかとすら思えてしまった。


「てめぇの荷物邪魔なんだよ!」
「んな無茶苦茶な!」
「貸せや」
「ちょ、」


私の荷物って鞄だけだしそんなに幅を取ってるわけでもないのに邪魔扱いされて乱暴に奪われる。
なんて雑な扱いなんだ私の鞄……。
必然的に手持ち無沙汰になった私と、私の鞄と買い物袋と傘を持つ勝己。


「……どれか持とうか?」
「黙ってろやカス」
「カス…」


そろそろ本気で泣きたくなってきた。
何を言ってもきっと暴言で返されると悟った私は何も言われないことにした。
さすがに悪いことしたかなって思って勝己の顔を見上げた時に気付いた。勝己の肩が濡れていることに。


「……」
「…前見て歩けや」
「ねえ勝己」
「次なんか言ったらぶっ殺すぞ」
「ありがとう」
「……」


何か意見したらぶっ殺されると思って、とりあえず言いたいことすべて飛ばしてお礼を言った。
勝己はまじでぶっ殺しそうだからね。
ここは素直に言うこと聞いて黙って歩くことにします。


「……おい」
「…、…え、喋ってもいいの?」
「最近どーだ」
「え?」
「元気にやってんのかって訊いてんだろどーなんだよ、あ"あ?」
「ちょ、怖いから」


勝己くん短気過ぎませんか。
そんなすぐ怒って血管浮かせてたらその内血管千切れちゃうよ。



「元気だよ、仕事も楽しいし。勝己は?」
「…まあまあだ」
「まあまあなんだ」


そこでまた会話が途切れてしまって、沈黙がお互いに流れる。
勝己はあまり自分から喋りたがらないし、そこまでお喋りなわけでもないから仕方ないことだけど。


「勝己、好きな人できたの?」


とりあえず適当に、女子っぽい話題を投げてみた。
勝己相手にこの手の話題は続かない気もするけど、とりあえず何でもいいから話したかった。


「お前はどーなんだよ」
「…私?」


まさか私にその質問が来るとは思ってなかった。