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ここで僕の命が尽きることは、分かっていた。
僕に残された時間は、羅刹になろうがなるまいが変わらないだろう。
羅刹になって死ぬか、労咳で無様に死ぬか。
新選組の刀として生きてきた僕がどちらを選ぶかなんて、考えるまでもない。
一人、また一人と浪士に向かって刀を薙ぎ、斬り捨てる。
自分の身体を敵の刀の切っ先が掠めても、刀が突き刺さっても、僕の身体は痛みという感覚を失ってしまったかのように何も感じなかった。
朦朧とする意識の中で、それでも僕の身体は動きを止めない。
考える間もなく、腕が、脚が、敵を斬るためだけに動いていく。
ああ、やっぱりそうか。
やっぱり、僕の居場所はここなんだ。
戦いの中にこそ、僕の生きる意味はあった。
いかにも、新選組の刀に相応しい場所じゃないか。
何人目かの敵を薙ぎ払った後、不意に身体が揺らぐのを感じた。
ついに、僕の身体にも限界が来たということだろう。
「沖田さん!!」
泣きそうな声で僕を呼びながら、なまえちゃんが僕の身体に腕をまわす。
立っていることもできず、僕は彼女を道連れにその場に膝をついた。
「今ので…最後、かな……」
そう尋ねると、なまえちゃんは泣きながら何度も頷く。
「はい…もう、もういいんです……」
「そっか……良かっ、た…」
これで、新選組は守られた。
僕は、守ることができた。
そう実感した途端、全身から力が抜けるのが分かった。
僕の様子に気付いたのか、なまえちゃんがまた僕の名を呼ぶ。
ずっと大切だった。
ずっと、好きだった。
ずっと、ずっと。
傍にいたかった。
たとえ、その心が僕のものでなかったとしても。
幼い頃に出逢って、いつも傍にいた。
土方さんたちと京に上ることになったときも、大切だからこそ、連れて行くつもりはなかった。
それでもついて来た彼女を、僕が守らなければと思ったのが、ついこの間のことのように思い出せる。
そして彼女が選んだのは、僕じゃなかった。
でも、それでも。
「なまえちゃん…」
軽く彼女の身体を押し返して、涙に濡れたその顔を見下ろす。
たとえ彼女の心が僕のものでなかったとしても、僕の想いは変わらなかった。
彼女が幸せそうに笑っていられるなら、それで十分だったんだ。
彼女の笑顔が、何よりも愛おしかったから。
「最後に…笑って……?」
そう告げると、案の定なまえちゃんは驚いたように目を見開いて、それから眉を寄せた。
「こんなときに、笑えって言うんですか?」
怒ったような顔ですら、大切で、愛しくてたまらない。
たくさんの彼女を見てきた。
花が咲いたような笑顔も、眉を寄せて怒る顔も、抱きしめたくなるほど儚い哀しげな姿も。
彼女だから、愛しい。
「こんなときだから、だよ…」
それでも、最後にこの目に焼き付けるなら、笑った顔がいい。
僕の一番好きな、彼女の笑顔が。
左腕に力を込めて、震える手でなまえちゃんの頬に触れる。
彼女の瞳から零れる涙が、僕の手を伝った。
手に触れる温もりを噛みしめながら、そっと口を開く。
「ね…笑って…?」
そう呟くと、なまえちゃんは少しの間の後に俯いた。
「本当に…我儘なんですから、沖田さんは…」
流れ落ちる涙を拭って、彼女はぎこちない笑みを見せてくれた。
その姿に、僕の口にも自然と笑みが浮かぶ。
ずっと、秘めてきた想いがある。
伝えることはないだろうと思っていた想いが。
彼女が僕ではない人を好きだと知ったときから、伝えることを諦めていた。
伝えてしまえば、きっと優しい彼女を困らせると分かっていたから。
彼女の想い人がいなくなってからも、彼女を突き動かしていたのはあの人だと分かっていたから、僕は何も伝えなかった。
死んでもなお彼女の心を離さないあの人が、ほんの少しだけ妬ましくて、そして何より羨ましかった。
自分の死がもう目の前だというのに、僕の心は不思議なほど穏やかだった。
それはきっと、彼女の温もりを傍に感じているからだろう。
たった一人で床の上で死を迎えるのではなく、僕の最期を、新選組の沖田総司としての最期を、彼女が見届けてくれたからだろう。
笑みを浮かべながら涙を流すなまえちゃんの頬を、もう一度撫でる。
最後に、君に伝えたい。
僕が、今までずっと抱えてきた想いを。
この想いに応えてくれとは言わない。
ただ、この命を終える前に、伝えたかった。
「ありがとう……大好きだよ」
たった一言。
それで十分だった。
どこか満ち足りるような思いを抱きながら、目の前の愛しい姿を目に焼き付けて、僕は遠のく意識を手放した。
僕なりの愛を君に
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