蝦夷へ渡った私たちは、松前城に攻め込んでいた。
松前藩は意地でも籠城戦に持ち込むつもりなのか、城門を開けては大砲でこちらに反撃を仕掛けてくる。
砲弾が地に落ちる度に、轟音と共に地面が揺れる。
足を取られないようにしながら、大砲が城門の内側に引っ込むのを確認したら砲弾が直撃した場所へと向かって、怪我人の有無を確かめることを繰り返していた。
十一月の蝦夷は、既に雪が深い。
このままでは、戦ではなく寒さにやられてしまいそうだ。
かじかんで感覚がなくなりそうな自らの手に、息を吹きかけて擦り合わせる。
土方さんは、松前城をどう攻め落とすつもりなのだろうか。
私は今回の戦では怪我人の保護を命じられているから、前衛で指揮を執る彼の様子は分からない。
だけど、土方さんならきっと松前城を制圧できるだろう。
私はただ、信じて己の使命を全うするだけだ。
そう自分に言い聞かせながら、眼前に聳える城を見上げた。
それからしばらくして、土方さんの先導で旧幕府軍は松前城を押さえることができた。
雪のちらつく中、松前城の敷地内で探していた姿を見つけて駆け寄る。
「土方さん!」
彼は私に気付くと、安堵の笑みを浮かべた。
「無事だったか、なまえ」
「ええ。土方さんも、ご無事で何よりです」
「当たり前だ。簡単に倒れてたまるかよ」
土方さんは笑いながらそう言うと、捕縛した松前藩の兵へと視線を移す。
「この間まで、俺たちもあんなだったな…」
そう言われて、彼らが旧式の装いを身に付けていることに気付いた。
「気合いだけで薩長の奴らと渡り合おうなんて、奴らから見たらお笑い種だったわけだ。立場が変わってみてようやく分かるなんて、遅すぎだな」
昔を思い出しているのか、土方さんの表情に陰が落ちる。
「でも、あのときとは私たちも違います。今は近代戦で新政府軍と戦えるんです。まだまだこれからですよ」
「…ああ、そうだな」
私の言葉に、彼は小さく笑って蝦夷の空を仰いだ。
つられるようにして、私も厚い雲に覆われた空を見上げる。
松前城を落としたことで、私たちは蝦夷を拠点として戦うことができる。
榎本さんたちが新政府軍から奪った軍艦だってある。
戦は、まだまだこれからだ。
ここから、私たちの反撃が始まるのだ。
蝦夷地を治めていた松前藩主たちが逃げ去ったのち、旧幕府軍は箱館の西方にある江差海岸に上陸した。
しかし、蝦夷を押さえたことで僅かな気の緩みが生じたのだろう。
蝦夷地の厳しい自然の前に、私たちは旗艦と輸送船を座礁させ、挙句には沈没させてしまった。
こうして、唯一新政府軍に勝っていた海上戦力の要を、旧幕府軍は失ってしまったのである。
その後、私たちは五稜郭を拠点とすることになった。
今後の戦いで、新政府軍と如何に戦うか、五稜郭では日々その軍議が行われている。
今日も日が沈む前から軍議が開かれているが、外がすっかり暗くなっても、終わる気配がない。
軍議が終わったら、土方さんにお茶を淹れてあげた方がいいだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、軍議が行われている部屋の扉が開くのが見えた。
終わったのだろうが、と思ったのも束の間、現れた土方さんの姿に息を呑む。
苦しそうに胸を押さえながら、彼は壁に手をついて歩き出した。
慌てて駆け寄ると、彼の額には汗が浮かんでいる。
「大丈夫ですか?」
「っ…ちづ……なまえ、か…」
彼は私の姿を見て、一瞬だけ目を見開く。
その意味に気付いて、私の脳裏に仙台に置いてきた彼女が浮かんだ。
「心配いらねえ…騒ぐな」
荒く呼吸を繰り返しながら、土方さんは自室へと向かう。
これは、羅刹の発作だ。
周囲に人がいないかを確認して、彼に手を貸す。
ここで、羅刹の姿を見られるわけにはいかない。
幸い、今いる場所から土方さんの部屋はすぐだ。
よろける彼を支えながら、なんとか誰にも会わずに部屋に辿り着くことができた。
苦しそうに呻き声をあげる土方さんを座らせる。
その瞬間、彼の黒髪が白へと変わっていく。
「土方さん、あの薬はどこですか?」
山南さんが開発した、羅刹の発作の抑制薬。
私は持っていない。
こんなことなら、少しでももらっておくべきだった。
土方さんなら、羅刹になった時点で山南さんから受け取っているはず。
しかし、彼は首を横に振った。
「あんなもの…とっくに、持っちゃいねえよ…」
「そんな……」
あれがないとなると、発作が収まるまでひたすらに耐え抜くしかない。
目の前で苦しむ土方さんに何もできず、その場に立ち竦む。
「なまえ、お前は…部屋から、出てろ…」
「で、でも……」
「いいから、出て行け…!」
その強い口調に、びくりと肩が震える。
今の私に、できることはない。
呻き声をあげる土方さんを尻目に、私は不甲斐なさを噛み締めながら部屋を出た。
「ああ、みょうじさん!土方君は大丈夫かい?」
扉を閉めたところで、土方さんの様子を窺いに来たであろう大鳥さんが姿を現す。
「大鳥さん…」
「土方君が急に退室して行ったから、具合でも悪いのかと思ってね」
そう言いながら、彼は心配そうな表情で土方さんの部屋へ視線を向ける。
「土方さんなら大丈夫です。少し疲れたので横になりたい、と」
「そうか。このところ、彼は働きづめだったからね。無理をしないで休みたまえ、と伝えてくれるかい?榎本さんには、僕から言っておこう」
「すみません。ありがとうございます」
大鳥さんに頭を下げると、彼は笑みを浮かべて踵を返した。
その背中を見送りながら、さっきの土方さんの言葉を思い出す。
彼は私を見たときに、千鶴ちゃんの名を呼びかけていた。
きっと土方さんには、彼女が必要なのだ。
そう思って、離れていく背中へ向けて口を開く。
「あの、大鳥さん!」
振り返るその人に、駆け寄った。
「どうしたんだい?」
「その……無理を承知で、お願いがあるんです。聞いて頂けますか?」
「言ってみなさい」
断られるかもしれない、と思いながら口にした願い。
私の不安をよそに、大鳥さんは少し考え込んだのちに、しっかりと頷いてくれた。
明治元年、十二月十五日。
箱館の町では、蝦夷共和国樹立の祝典が催され、この国で初めてとなる、入れ札による政府首脳部の選出が行われた。
その選挙で、土方さんは陸軍奉行並の要職を任せられることとなる。
その任を受けたことによって、彼の双肩にかかる負担はさらに重いものとなっていった。
数日後、私は大鳥さんから報せを受けて、港へ来ていた。
停泊した船から降りてくる人の中に目的の姿を見つけて、大きく手を振る。
「千鶴ちゃん!」
私に気付いた彼女は、嬉しそうな笑みを浮かべてこちらへ駆けてくる。
数ヶ月ぶりに会う千鶴ちゃんは、相変わらず元気そうだ。
「お久しぶり、なまえちゃん!元気そうで良かった」
「久しぶりだね。ごめんね、急に呼び出したりして」
「ううん。ずっと、皆さんのご無事をお祈りすることしかできなかったから…」
そう言いながら、千鶴ちゃんは手にかかえた包みを抱え込む。
それだけで、彼女が私たちをどれだけ心配していたかが伝わる。
「本当にありがとう。私を蝦夷に呼んでくれて」
「お礼なら、大鳥さんに言って。私は頼んだだけで、船の手配とかいろいろな準備をしてくれたのは彼だから」
土方さんが発作を起こしたあの日、私は大鳥さんに、千鶴ちゃんを蝦夷に呼べないかと提案した。
正直、許可がもらえるとは思っていなかった。
でも、大鳥さんから見ても、今の土方さんには千鶴ちゃんが必要だと感じていたらしい。
陸軍奉行並の小姓付として配属しよう、ということで、土方さんには内緒で蝦夷に呼んだのだ。
「とりあえず、大鳥さんに挨拶しに行こう」
「うん!」
そう言って、千鶴ちゃんと共に五稜郭へと戻る。
大鳥さんから千鶴ちゃんの辞令を頂いて、そのまま私の部屋へと向かった。
用意しておいた洋装を千鶴ちゃんに渡して、着替えてもらう。
「着心地はどう?」
「ぴったりだよ。ありがとう」
その言葉に、ほっと安堵する。
「なまえちゃんは、洋装にならないの?」
私の装いは、以前と変わらない忍装束だ。
そんな私を見て、千鶴ちゃんは不思議そうに首を傾げている。
「うん。私は…今の方が、落ち着くから」
私が今でもこの姿なのは、これが京にいた頃に着ていたものだからだ。
あの人が生きていたときに、これを纏って共に戦っていたから。
時代の流れとは目まぐるしいもので、気を抜けばすぐに流されてしまう。
彼の志を忘れないためにも、あの人と共に戦った姿で、私は最後まで戦い抜きたい。
「そっか…」
「今のままでも、動きやすいしね。よく似合ってるよ、千鶴ちゃん」
「そ、そうかな…?ありがとう」
照れたように笑う千鶴ちゃんに、私も笑みを浮かべる。
「よし。それじゃ、土方さんのところに案内するよ」
そう言って、千鶴ちゃんを土方さんの部屋の前へと案内する。
あとは、私がついていなくても大丈夫だろう。
土方さんは辞令を突き放すだろうけど、今の千鶴ちゃんならそれにも負けないはずだ。
千鶴ちゃんが土方さんの部屋へ入るのを見送って、踵を返した。
明治二年、三月。
後に宮古湾海戦と呼ばれる戦いが始まった。
海上戦とのことで、私は千鶴ちゃんと共に箱館に残ることを命じられた。
この奇襲作戦は戦艦三隻で行われる予定だったが、宮古湾を目指す途中で暴風雨に遭い、旗艦 回天丸のみで決行されることになる。
当初の予定よりも戦力を大幅に削がれたが、土方さんたちは決死の覚悟で戦に臨んだ。
しかし、回天丸一隻の旧幕府軍に対して、敵艦隊は八隻。
その差を埋められるわけもなく、土方さんたちは撤退を余儀なくなれた。
この戦闘で戦死した者は二十四名、負傷者は十三名。
開始からわずか四半時で、宮古湾海戦は旧幕府軍の惨敗で幕を下ろしたのだった。
箱館に戻ってきた戦艦を、私と千鶴ちゃんは出迎える。
疲れ切った様子で港へ降り立った土方さんに、千鶴ちゃんが駆け寄っていく。
その姿を眺めながら、負傷者が多いことに気付いてそちらへと足を向けた。
彼らの怪我の様子を見つつ、募っていく不安を必死に抑える。
もうすぐ、蝦夷は雪解けの季節だ。
雪が解けたら、新政府軍はこの地に攻め入ってくるはず。
ここも、近いうちに戦場になるだろう。
明治二年、四月。
予想していた通り、雪解けを待っていた新政府軍が、ついに蝦夷に姿を現した。
乙部に上陸した敵を防ぐため、旧幕府軍は箱館の南西、松前口に陸軍奉行の大鳥さん、北西の二股口に陸軍奉行並の土方さんを司令官として布陣させた。
私は伝令として、大鳥さんや島田さんと共に松前口で敵を迎え撃つことになった。
出立する前日、私は千鶴ちゃんの部屋を訪ねていた。
「千鶴ちゃんに、お願いがあるの」
そう言いながら、私は懐から小瓶を取り出す。
その中に入っているのは、赤黒い液体。
「それは……?」
「…私の血」
私の言葉に、千鶴ちゃんは驚いたように目を大きく見開いた。
そして、私の腕に巻かれた包帯に視線を向ける。
「どうして、そんなこと…」
「土方さんにもしものことがあったら、これを飲ませて欲しいの」
ずっと、考えていたことだった。
私の血を今後使うことはない、とは言ったものの、心の内では悩んでいた。
これから、蝦夷での戦いは激しさを増すばかりだろう。
そんな中で、土方さんがいつ命を落とすか分からない。
たとえ私の命を犠牲にしてでも、彼には生きてもらわねばならないのだ。
天霧や風間には嘘をつくことになってしまうけれど、土方さんの命には代えられない。
小瓶を差し出すものの、千鶴ちゃんは首を横に振る。
「駄目だよ、なまえちゃん。そんなことしたら、なまえちゃんが……」
「私は、大丈夫だから。土方さんの…新選組の役に立つなら、それでいい」
それでも、彼女は受け取ろうとしない。
「土方さんが受け取るはずない!」
「だから、千鶴ちゃんに頼んでるの。もし土方さんが怪我をして、どうにもならなくなったら…これを飲ませて助けてあげて。お願い」
「なまえちゃん……」
「私の血に、どれくらい雲居の力が宿ってるかは分からない。これだけの量で、効果があるのかも……でも、いつかこれが必要になるときが来ると思う。そのときは迷わず、使って欲しい」
縋る思いで、彼女に頼み込む。
私が守りたいのは、新選組であり土方さんだ。
彼には、この先も生きてもらわなければならない。
それが、私の願いだ。
私の強い口調に、千鶴ちゃんは閉口する。
少しの沈黙のあと、彼女は私の掌に乗る小さな瓶に手を伸ばした。
「…分かった」
千鶴ちゃんは私から小瓶を受け取ると、手拭いに包んで懐にしまい込む。
哀しそうに眉を下げて、彼女は私へ視線を戻した。
「でも…でもね、土方さんだって、なまえちゃんのことを守りたいと思ってるんだよ。妹みたいに思ってるって…大切な、仲間だからって」
「うん…分かってる」
そんなことは、ずっと前から知っている。
あの人は、本当は優しくて仲間思いの人だから。
それでも、何と言われようと私の決意は変わらない。
「だけど土方さんは、新選組の頭だから。頭を失ったら、何もかもおしまいなんだよ」
そう告げると、千鶴ちゃんは目を見開く。
そして、泣きそうな顔で視線を落とした。
「山崎さんと、同じこと言うんだね…」
涙を堪えるように俯く千鶴ちゃんに、私は穏やかな笑みを向ける。
「あの人は、私の中で生きてる」
彼の志を継ぐことで、彼は私の中で生き続けている。
それは同時に、私のことも生かしているのだ。
あの人の願いが、想いが、私を動かし続ける。
「土方さんを、よろしくお願いします」
千鶴ちゃんに向かって、深く頭を下げる。
いつか、皆が私に想いを託したように。
翌日、私は土方さんと千鶴ちゃんと別れ、松前口へと箱館を発った。
作戦通り、松前口にて新政府軍を迎え撃ったが、その戦況は芳しくない。
士気が低いわけではないが、新政府軍の勢いには圧倒されるばかりだ。
旧幕府軍は力を尽くしたが、その差は歴然だった。
「大鳥さん、前衛が突破されました!」
息を切らして本陣へと駆け戻り、大鳥さんに伝える。
彼は目を見開いてから、唇を噛み締めて手元の地図を見下ろした。
「中衛の様子は?」
「持ちこたえてはいますが、正直なところ時間の問題かと」
「そうか…」
地図を掴む大鳥さんの手に、力が籠もった。
その手に握られた地図に皺が寄る。
彼は意を決したように顔を上げると、私を見た。
「無念だが…撤退だ」
「…分かりました。皆さんに知らせてきます」
「いや、君は今すぐ、馬で二股口に向かってくれ。土方君たちに知らせてほしい。本部へは、他の伝令を向かわせる」
大鳥さんの言葉に、はっとして頷く。
すぐさま身を翻し荷をまとめて、繋いであった馬へと跨って手綱を取った。
松前口を突破されたことで、土方さんたちの退路が断たれる可能性がある。
今から本部へ向かって、それから二股口へ報せに行くのでは遅すぎるかもしれない。
焦る気持ちを必死に落ち着けながら、馬の腹を蹴った。
ようやく二股口に着いたときには、すっかり日が暮れていた。
番をしている兵に、松前口からの伝令だと告げ、土方さんに取り次いでもらう。
「どうした、なまえ」
ただならぬ様子を感じたのか、土方さんの表情は険しい。
「松前口が、突破されました」
「なんだと…!?」
私の言葉に、土方さんは驚愕の表情を浮かべる。
「大鳥さんたちは、箱館への撤退を始めています」
「そうか…。分かった、伝令ご苦労だったな。少し休んでおけ」
「はい」
土方さんは、二股口の兵と話し合うためにその場を離れる。
私は疲れた身体を休めるために、手近な木に凭れて座り込んだ。
そして東の空が白み始めた頃、私は箱館へと撤退する彼らと共に、二股口を後にした。
「なまえちゃん!」
歩みを進めていると、背後から名前を呼ばれた。
振り返れば、千鶴ちゃんの姿があった。
彼女は嬉しそうな笑みを浮かべて、私の元へ駆け寄ってくる。
その無事な姿に、ほっと胸を撫で下ろした。
「良かった、無事で…」
「千鶴ちゃんも、元気そうで良かった」
「皆さん、すごく頑張ってらしたから。…あれも、まだ使ってないよ」
「そっか。まぁ、使わないに越したことはないよね」
そう話しながら、少し離れたところを進む土方さんの背中を見つめる。
二股口の戦いは、土方さんの指揮によって勝利を重ねていたそうだ。
さすが、と言ったところだろうか。
やっぱり、あの人はこれからも必要な人間だ。
でも、松前口が突破され、二股口からも撤退したことで、これからの戦いはさらに激化していくだろう。
これから戻る箱館も、安全とは言えなくなってしまった。
きっと土方さんは、それでも戦い続けるのだろう。
私は、どこまであの背中を追い続けられるだろうか。
どこまで、共に戦うことができるのだろうか。
そこまで考えて、土方さんから視線を外す。
その瞬間、ある一点に釘付けになった。
「え……?」
思わず、足が止まる。
「なまえちゃん…どうかした?」
立ち止まった私に気付いて、隣を歩いていた千鶴ちゃんも足を止めて私を見た。
木陰に隠れるようにして構えられた、ひとつの銃口。
注意して見なければ、見逃してしまいそうだ。
そしてその銃口が向けられているのは、さっきまで私が見つめていた背中。
その光景を目にした瞬間、理解するより先に身体が動いていた。
地を蹴って、走る。
心臓がどくどくと脈打つ。
脇目も振らずに、間に合え、間に合えと心の内で何度も唱えながら、ひたすら駆けた。
行く手を阻む兵たちを押し退けては、その背に追いつこうと必死に足を動かす。
「土方さん!!」
私の叫びと、鳴り響く一発の銃声が重なった。
まるで、ゆっくりと時が流れるような感覚を覚える。
放たれる銃弾。
振り返ろうとする土方さんの背中。
彼を背に庇うように立ちはだかって、精一杯腕を広げた。
私がこうしてこの人を庇うのは、二度目だ。
一度目は、鳥羽伏見の戦で。
あのときは、私ではなく山崎さんが刃を受けた。
もう、私の代わりに傷を負う人はいない。
ふと、思った。
きっと私は、こうして土方さんを守るために、ここまで生きてきたのだ、と。
そう悟った刹那、衝撃が私の身体を貫く。
「なまえ!!」
揺らぐ世界の中で視界に入ったのは、ずっと追いかけ続けた人の、驚きに満ちた顔だった。
蝦夷
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