バレンタイン乙女 (仮)
2月14日。街中に行ってもバレンタイン、テレビをつけてもバレンタイン、もう日本中がバレンタインじゃないかと思えるほどバレンタインな一日が今年もやってきた。
「ということで、男性陣は和樹の部屋へ撤退をお願いします!ほらほら出て行け!去れ!!」
そう言いながら千鶴ちゃん以外を和樹の先導で部屋から追い出す。
ついこの前、千鶴ちゃんにバレンタインの存在を教えてあげたら、日頃のお礼も兼ねて一緒にお菓子を作りたいと申し出てくれた。
いろいろと家事を手伝ってくれてる天霧お母さんも含め、彼らには出来上がるまで和樹の部屋にいてもらう。
要するに、出来上がってのお楽しみだ。
「さて、それじゃさっそく始めますか!」
「う、うん!よろしくお願いします!」
つくるのはごくごく簡単な炊飯器で作れちゃうチョコレートケーキ。
むしろ普段作れる程度のもの。
その方が手軽で千鶴ちゃんに無理をさせないし、切り分ければあの大所帯でも平気だろう。
絶対手抜きだとかそういうのはありません。絶対。
本当はもうちょっとチョコ感があるものを作るのもいいなとは思ったけれど、あの甘ったるいものを皆が皆食べられるかはちょっと不安だし。
使うチョコをビターにすればそんなに甘くもならないはず。
張り切る千鶴ちゃんと一緒に、私は早速準備に取り掛かった。
「はい、完成!」
焼き上がったケーキに簡単にデコレーションをして、なんとかそこそこ美味しそうに見えるようになった。
やっぱり見かけも大切だもんね。
「わあ…おいしそう…!」
「きっと皆喜んでくれるよ。それじゃ和樹に連絡しなきゃ」
和樹に連絡をして男性陣がぞろぞろと戻ってきたのはそれから数分後。
一番最初にケーキに反応したのは先陣を切って来たぱっつぁんと平助だった。
「うおおおおなんだこれ旨そう!!」
「色がなんかあれだけどすげえ旨そうだな!!これ食えるのか!?」
「ケーキって言うこの世界の甘味ですよ。おい平助それは褒めてるのか貶してるのかどっちだ貴様」
たしかにチョコだから色はあれだけど。私も心の隅で思わなかったわけじゃないけど。
まぁ平助もそんなことを言いながら目がきらきらしてるし、これは無理矢理にでも口に押し込んでぎゃふんと言わせてやろう。
他の皆も興味津々と言った感じでケーキを見つめている。
「とりあえず空いてる場所に座って、皆で食べましょうか!切り分けますね」
人数分に切り分けて、ひとつずつ皿に移して配る。
「私と千鶴ちゃんの手作りなんですから、お残しは許しまへんで!!」
「お前そのネタ分かるの俺くらいだぞいいのかそれで。お前のボケはそれでいいのか」
「別にいいよ!!さ、食べてみて下さい!!」
若干戸惑いながらケーキを口に運ぶ皆の反応を見ようと全員をガン見する。
さあどうだ。
あれ、沖田さん食べてない。
なんで土方さんの方見てるんだろう。
一口食べた土方さんが驚いたような表情を浮かべたのを見て口元に笑みを浮かべる。
「…美味いな」
「なんだ、毒は入ってないみたいだね。それじゃ僕も食べようかな」
「総司てめえ…俺を毒味にしやがったな!」
「嫌だなあ、毒味だなんて。せめて味見って言って下さいよ」
いつもの如く始まったよく分からない喧嘩のようなやりとりを気にしないようにして、私は他の人へと視線を移す。
毒味だのなんだのにいろいろ突っ込みたかったけど沖田さん相手じゃちょっと怖いし。
斎藤さんも無表情だけどなんとなく目が輝いてるから、きっと美味しいと感じてくれているんだろう。
これだからクーデレは。
「すげえ!うめえ!なんだこれうめえ!!」
「平助、もし苦手だったら俺が食うから寄越せよ!」
「やらねえよ!!むしろくれよ!!」
「こんな旨いもん作るなんて、千鶴もよく頑張ったな」
「あ、ありがとうございます!」
「左之さん、一応私も作ったんですけど」
美味しいと言いながら作った人を褒めちゃうあたりさすが歩く18禁…恐ろしい子…!
まぁ千鶴ちゃんが可愛いから、私を含めなかったことは見逃してあげよう。
実際一番の功労者は炊飯器さんですが。
「ふん…食えないこともない」
「風間さんってなんでそんな上から目線なんですか何様ですかキンキラ様かそうかそうか」
「なまえさん、とても美味しいですよ」
「ありがとうございますお母さん…!」
「おっ、けっこういけるなこれ」
「どうだ参ったか長髪ヤンキー」
風間さんと不知火さんがなんだか寂しそうにこっちを見てるけどまぁ気にしない。
「山崎さん、お味はいかがですか?」
もちろん反応が一番気になるのはこの人だ。
心臓が脈打つのを感じながら、真顔で尋ねる。
彼はもう半分ほど食べていて、尋ねると素敵な笑顔を見せてくれた。
「ああ、とても美味しい。ありがとう」
「うわああああああ嬉しいですこちらこそありがとうございますうわあああああ」
素敵な笑顔に素敵な言葉にノッカーゥされそうになるのを必死に押しとどめる。
だめだここで気絶するわけにはいかないんだ。
私にはまだやることがあるんだから…!
「山崎さん、もし良かったらこれもどうぞ!」
隠し持っていた袋を差し出すと、彼は不思議そうな表情を浮かべながら受け取ってくれる。
中に入っているのは、前々から作っていたクッキーだ。
もちろん、これを作ったのは山崎さんの為。
私ってなんて乙女…!
「これは…?」
「今日は女の子が好きな人に甘味をあげる日なので、山崎さんにだけあげます!」
そこまで言って、顔が熱くなるのを感じた。
柄にもなく赤くなってるけど、彼にこれを渡すためだもの仕方がない。
彼も予想外だったのか、驚いたような表情を浮かべている。
「お前さ…そういうのは二人だけのときにした方が良かったんじゃないかな…」
「え……あっ…」
和樹の声にはっとする。
そうだ。
よくよく考えたら今みんないるじゃん。目の前じゃん。
ギギギギと軋む音がするんじゃないかってくらいぎこちなくまわりを見ると、皆がこっちを見ていた。
途端に恥ずかしさが込み上げてくる。
「あ、あの、えっと、これは……うわあああああああ!!!!」
なんとか弁解しようとしたけど、無理でした。
穴があったら入りたいむしろ穴掘って入りたい気分に陥った私は、近年稀にみる速さで自分の部屋に逃げ込んだ。
扉を閉めてベッドにダイブして、頭を整理する。
テンションが最高潮だったとは言え、なんたる失態。
なんだろうこの公開処刑。
いや私がやっちまったんだけど。
恥ずかしさを振り払うように、私はベッドの上をごろごろと転がった。
リビングでどんな会話が繰り広げられているかも知らずに。
こちら変わりまして和樹です。
なまえが部屋に籠もってから大変なことになっています。
「いいな山崎君!俺にもくれよ!」
「いくら藤堂さんの言葉でもそれだけは駄目です。これは俺がもらったものですから」
俺の目の前には、山崎さんを茶化す土方さんや沖田さんと、なまえがあげたお菓子を欲しがる平助と何と言われても断固としてそれを渡そうとしない山崎さん。
彼の顔も若干赤いから、実際満更でもないんだろうな。
まさかあのなまえにこんなイケメンな彼氏ができるとは。
もしあいつがこの場にいたら失神くらいはしてたんじゃないかと思う。
だって自分があげたものをあんなに大事にしてもらえたらそりゃ嬉しいだろうし。
とりあえず写メっておくか。
あとで見せてやろう。
戻