木曜日
知るか否かは、あなた次第
どうも、みょうじなまえです。昨日はまさか失神してしまうとは…。
でも仕方ないよね、あんなイケメンなんだもの。
しかもそのイケメンに倒れそうになったところを受け止めてもらえたとか何のご褒美?
あ、なんかニヤけそう。
「お前一人でニヤついてんなよ気色悪い」
既にニヤけていたようです。
「仕方ないじゃないか、和樹君。家にあんなイケメンがいるんだもの」
「まぁ…お前ほんと好きだもんな…」
「よく分かってるじゃないか」
「何年の付き合いだと思ってるんだよ」
そんな会話をしながら、テレビの前に正座している山崎さんの後ろ姿を眺める。
昨日、一通りお風呂場やトイレなど生活に必要な場所と使い方を和樹に教えてもらって、今はテレビに夢中になっている彼。
必要なものはあらかた買ったから、しばらくここにいることになっても心配はないはず。
テレビには九時から始まる人気のバラエティー番組が映っているものの、きっと彼の興味は内容に関係なく、どうしてあそこに人がいるのか、というところだと思う。
でもさすがに近すぎるんじゃないか、あれは。
「山崎さん、あんまり近くで見ると目が悪くなっちゃいますよー?」
「そ、そうなのか…?」
そう言いながらちょっとずつ後ろに退がってはいても、視線はテレビの画面から離れない。
はい出ました、本日のかわいいポイント。
「今日は失神しないみたいだな」
和樹が茶化すように言ってきた。
あ、なんかむかつく。
山崎さんはテレビに意識を集中しているのか、こっちの会話は耳に入っていないみたい。
「ふふん、ちょっとは耐性ができてきたのさ。何度も失神してたんじゃ山崎さんのかわいいポイントを見逃してしまうじゃないか」
「お前、その為に生きてないか?」
「あながち間違っちゃいないよ和樹君。正しく言えばそれが生き甲斐さ」
「じゃ、あの人が元の世界に帰ったらお前死ぬのか?」
笑いながら和樹が言った言葉に、ふと気づく。
元の世界に帰ったら。
そうだ。
あの人は、この世界の人間じゃない。
今はこの世界にいて、この世界の服を着てはいるけれど、彼は紛れもなくあちらの人間。
これは変えようがない事実。
「死にはしないだろうけど、ちょっと悲しいかな…」
ぽつりと呟けば、和樹が怪訝そうな顔をした。
「冗談のつもりだったんだけど」
「もっとマシな冗談つけ、バ和樹」
「うるせーアホなまえ」
そう言った瞬間、テレビから聞き覚えのあるメロディーが流れ出した。
「ちょ、これって、まさか…」
大河ドラマ『新選組!』のメインテーマ。
それと共にでかでかと現れる、”新選組”という文字。
山崎さんの視線は未だテレビに注がれている。
「ああああああああ!」
ソファから飛び上がって慌ててテレビの電源を切る。
そういえば、今日は新選組関係の番組がやるんだった。
すっかり忘れてた。
なんでこうもタイミングよく流れるのか。
しかもなんで大河ドラマのあれから始まるんだ、テレビ局のやつらめ。
突然のことに驚いたのか、山崎さんは目を見開いて私を見た。
その目は、明らかに動揺している。
見たよね、今のはさすがに。
「…見ちゃいました…よね…」
「あれは…新選組、なのか…?」
何も言えずに黙っている私から視線を外さず、彼は立ち上がった。
言えるわけがない。
この世界にも新選組があって、それが元になってあなたたちは作られたんです、なんて言えるはずもない。
もし言ってしまえば、彼らの物語の結末に関わる。
彼らの物語はいろいろと付け加えてあっても、それなりに歴史に忠実に進んでいくから。
死ぬ人は死ぬし、起きる戦いは起こる。
これだけはどうしても譲れない。
「この世界にも新選組があるのか?」
「おい、落ち着けよ」
和樹が間に割って入るけど、山崎さんの勢いは弱まらない。
「教えてくれ、どういうことなんだ」
真剣な目でそう言われても、私にだって譲れないものはある。
でも。
それは彼も同じ。
彼にとって新選組というものは、彼の志そのもの。
それは、自分の命を賭してもかまわないと思うほど。
新選組に関わることを、きっと彼は見逃してはくれない。
「…分かりました」
思った以上に、自分の声は掠れていた。
ああ、情けない。
「この世界の新選組について、教えます。でも…」
話してしまえば、何かが終わってしまう気がする。
それが一体何なのかは全然分からないけど、なんだかすごく怖い。
「明日にしても、いいですか?長くなりそうなので…」
無理矢理笑ってみせるけど、うまく笑えている気がしない。
こんなときに弱気になる自分に無性に腹が立つ。
山崎さんは納得していない表情のまま、仕方ないと言うように頷いた。
和樹は心配そうに私を見ている。
「ちょっと疲れたから、私部屋に戻りますね」
そう言って、自分の部屋へと向かった。
部屋に入った途端に足の力が抜けて、扉に背を預けてずるずると座り込む。
「大丈夫か?なまえ」
扉越しに聞こえる、和樹の声。
「なんとか…」
「そうか…ゆっくり休めよ」
その言葉を最後に、徐々に遠くなっていく足音が聞こえた。
彼がどんなタイミングでこちらに来たのか、まだ分からない。
入隊したばかりかもしれないし、池田屋事件の頃や、もしかしたら鳥羽伏見あたりかもしれない。
こちらの新選組について話すとなれば、必然的に彼らの物語にも触れることになる。
物語の結末は、彼が聞きたいというなら教えよう。
「できれば、それだけはしたくないんだけどな…」
彼は一体、どうするんだろう。
自分が鳥羽伏見の戦いによって命を落とすと聞いたら。
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