金曜日
それこそ、私が惹かれる
理由

「お話する前に、ひとつだけ聞かせてください」

向かい側に座る彼は、黙って頷いた。

「山崎さんがいた世界は、何年の何月だったか覚えていますか?」

心臓がうるさい。
彼が命を落としてしまうのは、慶応四年、1868年の一月のこと。
どうかそれよりずっと前でいて欲しいと、そう願う。
少しだけ考え込む素振りを見せた後、山崎さんは口を開いた。

「たしか、元治元年の十一月…」
「元治元年…」

元治元年は、池田屋事件や禁門の変があった年。
西暦になおすと、1864年。
池田屋事件は六月あたり、禁門の変は八月に起きたはずだから、彼が死ぬ鳥羽伏見まではまだ時間がある。

「それじゃあ、池田屋事件や禁門の変は知ってるんですね?」
「君も、知っているのか」
「はい、あれは有名ですから」

とりあえず、池田屋事件までしか体験していないなら、まだ話しやすい。
良かった。

「もう知ってると思いますけど、この世界にも、新選組という組織が存在していました。存在していたと言っても、もう150年ほど前のことです」
「そんなに前なのか…」
「新選組を構成する隊士は、山崎さんのいた世界の方たちと同じ名前、そして生い立ちもほぼ同じです。局長の近藤勇、副長の土方歳三…」

知っている隊士の名前をつらつらと並べていく。
目の前の彼は驚きを隠せない様子で、私の話を聞いていた。

「お前…さすがだな」
「当たり前でしょ。それだけ好きなんだから」

感心した口調で言った和樹に、どんなもんだと笑って見せる。

「山崎さんが先日体験した池田屋事件や禁門の変、そしてその前の多くの事件も、実際にこちらの世界でも起こったという記録が残っています」
「そこまで同じということは、やはりここは異世界というわけでは…」
「いいえ。その証拠に、こちらには変若水も羅刹も、そして、風間千景という鬼たちも存在していません」

そういう資料や文献は何も残されていないし、話も伝えられていない。
あれは、薄桜鬼という物語のオリジナル。

「あなたの所属する新選組は、こちらの世界の新選組を基にしてつくられている。だから、多少差異はあるけれど、同じような事件が起きて、同じような道を辿っているんです」



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「教えて欲しいことが、ある」

しばらくの沈黙の後に、山崎さんはそう切り出した。

「こちらの世界での新選組では、副長や局長がどんな道を辿ったのか、教えてくれないか」

その質問に、私は、後に彼らの世界でも起こってしまう戊辰戦争について軽く説明をする。
もちろん、それによって命を落とす隊士がいることは伏せたまま。
彼が知りたがっているのは、新選組の要とも言える近藤さんや土方さんについてであって、余計な情報は求めていないから、この判断は間違ってはいないと思う。

「局長の近藤勇は、慶応四年に下総の流山で投降し、それから板橋にて斬首。副長の土方歳三は、その翌年の五月に函館で戦死しました」
「……そうか」

彼はそれだけ言って、視線を落とした。
その姿に、絶対に口にしないと決めていたはずの言葉が、私の唇から漏れる。

「…私は、あなたがこの先どうなるかも知っています……それを知りたいとは、思わないんですか?」

言ってしまった、と思った。
その瞬間、何故か無性に泣きたくなって、歯を食い縛ってそれに耐える。
私が尋ねると、彼は少し考え込んでから、言葉を紡いだ。

「気にならないというわけではないが…それを知ったとして、俺がすることは変わりない。俺はあくまで、己の命を賭けて新選組を守り抜くつもりだ」

いかにも彼らしいと、思った。
この真っ直ぐな瞳に、折れない志に、そして誠実さに、私は惹かれている。
その魅力はなくなることはなくて、寧ろ今でも増していくばかりで。

「私、山崎さんのそういうところが、すごく好きです」

そう言うと、彼は一瞬驚いた表情を見せた後、少し顔を赤くして口を開く。

「ありがとう」

穏やかな笑みと共に紡がれた言葉に、泣きそうになるのを堪えながら、私も微笑みを返した。

ああ、この人と同じ時代を、同じ時間を生きてみたかった。
決して叶わないけれど、心からそう思った。