おいでませ、三次元
逆トリップ。それは、二次元に恋する乙女なら誰しも一度は夢見ること。
私だって例外ではない。
少し前まではたしかに、できるなら私がトリップしたいけどいろいろ大変そうだから、もういっそのこと二次元が来いとか言ってた。
それは否定しない。
「なーなー、これどうやって使うんだ?」
「あ?こうじゃねえか?」
「おいおい、新八がやると壊すからやめろって」
だけど、理想と現実ってだいぶ違う。
「土方さん、どうしたんですかもぞもぞして。厠ですか?」
「違えよ!畳じゃねえから落ち着かねえんだよ」
もういっそのこと皆来てしまえばいいとか、思わなかったわけじゃない。
だけど、まさか。
「こんなに騒がしくなるなんて、一体誰が想像できただろうか、いや、できなかっただろう…」
「まぁ、来ちまったもんは仕方ねえんじゃねえの?」
頭を抱える私の横で、和樹は他人事のように答えた。
「だっておかしいでしょ!?叶わない夢だからこそ夢は美しい夢のままでいられるんでしょ!?なんなの!?うちの玄関は逆トリの入り口ですか!?」
「落ち着けって、こうなったらもう仕方ない。俺は諦めたぞ」
一週間前の月曜日、バイトから帰宅した私の目の前に現れたのは山崎さんだった。
それから一週間、私は彼と一緒に過ごした。
別に、普通に生活をしていただけだ。
彼と一緒に日野に行って、そこで彼はあちらへと帰って行った。
ただ、別れ際になんかものすごくいい雰囲気になったのを覚えている。
覚えてるっていうか昨日の今日なんですが。
でもその雰囲気だって、もう逢えないと思ったこそのものと言っても過言ではない。
それこそあれだ、なんかもう本とか出版できるんじゃないかってくらいの一週間だったと思う。
出会いと生活、そして別れ…的な感じで。
きっと逆トリを夢見る乙女のベストセラーとかになれちゃうんじゃないだろうか。
山崎さんが消えるのを見届けた後に帰宅して、私はこれからも彼への愛を抱いて生きていく、みたいなThe Endを迎えようとしていた私の目の前に現れたのは、まさかの御一行様。
山崎さんはもちろん、千鶴ちゃん土方さん沖田さん斎藤さんそしてあの三馬鹿という八人の大所帯。
来るなら来るで、もうちょっと時間が経ってからでも良かったと思うんだ。
あのシリアス感が見事にぶち壊されたっていうかなんていうか、真面目なラストは一体どこに行ったのかっていう。
さすがにこの大所帯を一人で相手するのは無理だと思って、和樹に来てもらったのが数時間前だ。
ここへ来たことがあった山崎さんのお陰で、なんとか皆に状況を説明することができたけれど、山崎さんがいなかったら正直危なかったと思う。
特に沖田さんとか沖田さんとか沖田さんとか。
状況を説明しようとしたら黒い笑みを向けられて「え?何?斬って欲しいの?」なんて言われたときには心の中でグッバイ現世と何度唱えたことか。
「で、これからどうするんだよ」
とりあえず来てしまった皆をリビングに押し込めて、私と和樹は会議と称して私の部屋で話し合っている。
「どうするって言われても…聞いたところじゃ、みんなあっちでもう死んじゃったらしいじゃん。我が人生に一片の悔いなしって感じで死んだらここにいましたーって感じらしいじゃん」
「てことは、元の世界に返せないってことなのか?」
「返すとしたら天国?え、天国に返すってどうすればいいの…」
どうやったら天国に返せるのかと本気で悩み始めた私の頭を和樹が叩く。
逆トリしてしまったみんなに話を聞いてみたけれど、なんと全員あちらの世界ではもう死んでしまったらしいのだ。
それで気付いたらここにいた、と。
「逆トリがこんなに大変なものだったなんて思わなかったわ!!もう!!」
「俺にキレないでお願いだから」
リビングからは相変わらず騒ぎ声が聞こえる。
正直、この状況が嫌なわけではない。
嬉しいと言えば嬉しい。それは間違いない。
だけど。
嬉しいという言葉だけで片づけられる問題じゃないのだ。
「まぁ、鬼さんが来なかっただけましなのかなー…」
あんな偉そうな人が来たらそれはそれで困る。
絶対疲れる。
そう言った途端、玄関から大きな物音が聞こえた。
「…おい」
「聞こえてない私は何も聞いてない物音なんてしてない」
でも、私が向かうまでもなかったようだ。
リビングがさらに騒がしくなったと思ったら、聞こえてきた偉そうな声。
「いらっしゃったみたいだな」
「ジーザス!!!!」
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