03


クリスマス休暇を迎える前に、三年生以上の生徒達はホグズミード村への外出許可が下りた日があったようでぞろぞろとホグズミードに向かう生徒の群れが窓から見えた。
生徒達は雪の積もったホールを抜け白い景色の中に消えていく。今日は風も雪も強いから出かけるのには向かないけど、いつもこの大きな城の中にいるしかない私達にとっては貴重な外出日なのだ。一、二年生は知り合いの上級生にお買い物を頼むのも恒例である。

ちなみにホグズミード村への外出証は朝早くから提出が行なわれる。提出後に外へ出ることができるのだ。せっかくの休日、私も普段なら朝ごはんは食べ損ねる時間に起きる。昼も危ない。そんな私がこんなに朝早く起きたのはひとえにお金のためである。
ホグワーツに入ってから私は小さなアルバイトをしていた。いやもうおうちのお手伝いレベルだが。
スプラウト先生とフリットウィック先生の助手である。魔法薬学の成績はよいのに薬草学の成績がファンキーな私にスネイプ先生がスプラウト先生の小間使いでもしてこいといったためである。罰則かと思いきや訪れてみれば普通に並べてある薬草を一定量にまとめて干して欲しいという頼みごとだった。最初はクランペットやかぼちゃフィズをもらったりする程度だったが、最近になって扱う薬草が上級生の授業のものになったらしく給金になった。うれしい。
ちなみにこういう生徒はちらほらといるらしい。君と同じ年なら例えばセドリック・ディゴリーやアンジェリーナ・ジョンソンなんかね、内緒だが、と笑われた。ファンキーな成績じゃなくてもやる子はいるらしい。

おそらく今期最後の授業のための準備である。根生姜をひたすらに刻み、月長石を粉々に砕き、角ヒキガエルを解体する。これに関しては一年生にやらせるのには反対なグロさがある。箱の中では角ヒキガエルがゲコゲコとないて最期の時を待っている。やめてそのつぶらな瞳で見ないで。
向かい側でアンジェリーナとパーシー・ウィーズリーがまな板の上の角ヒキガエルを虚無の瞳で見ている。わかるよ。そしてパーシーは私のことも機嫌の悪そうな顔で時折顔を上げて見ていた。スリザリン嫌いすぎると思うよ。
スプラウト先生の小話を聞きながら仕事を終わらせる。終わったときにはお昼の時間は過ぎていた。パーシーは真面目にスプラウト先生のもとへ質問に行き、アンジェリーナは眠そうな顔で寮へと戻っていった。



▼▼▼



今回のホグズミードへむかった上級生の知り合いに、私も例に漏れずお使いを頼んでいた。
それを受け取り、授業後にふくろう小屋へ向かう。えさを与えてから、学校の共有で買われている茶色い毛のふくろうの足に小袋と手紙を結び付けて飛ばす。窓から一瞬その姿が見えなくなったと思うとすぐに飛び上がり遠くの空に向かって消えていった。
小袋の中身は細々としたアルバイト代で買ってきてもらったものである。


この季節、毎回送るものである。俗にいうクリスマスプレゼントというもの。寮の友達にお世話になった先生、母には直接渡すのでふくろうは使わなかった。
そして、あと一人。名無しで送るプレゼントである。
これは一年に一回の一念発起のようなもので、去年までは手作りの、といっても栞や編みぐるみ程度のもので一年もたてばぼろぼろになってしまうものを送っていた。今年は既製品なので長持ちするだろう。

サレー州、リトル・ウインジング、プリベット通り四番地、階段下の物置内
ハリーポッター様

ちなみにふくろう便ではハリーのおうち(正確にはダーズリーの家)には届かないのではないかと考え麻グルの郵便局に届けるようにしている。無事届いているかは分からないのだが。


これで今年のクリスマス作業は終わりである。ポケットの中の飴を取りだし口に放り込む。口の中でパチパチと飴が暴れ出す。この瞬間口を開くともれなく飴が飛び出してくる。お行儀悪いよ!

「ハイディア!」

名前を呼ばれて振り返ると、そこにはハッフルパフの優等生セドリック・ディゴリーがいた。カナリアイエローのマフラーを巻いた好青年は袋を抱えている。おそらく私と同じようにクリスマスプレゼントをふくろうに託しに来たんだろう。

「セドリック!スプラウト先生のところ以来だね」
「そこでしか会えないのを忘れていたよ、ずっと探してたんだ」

階段を上がってくるセドリックと、階段を下りる私。中ほどでかち合うと、セドリックの頬が真っ赤になっているのが見て取れた。寒いからね。
開きっぱなしの窓から振り込んだ雪が階段の四隅にたまっている。

「何か用事があった?」
「うん、クリスマス休暇は家に帰るんだろう?」
「ああ、もちろん帰るよ」
「そうだよね、いや、住所を聞くのを忘れていたなって」
「…あー、そうか。いや、クリスマスプレゼントなんてそんな大層なもの貰えないよ」

彼とは寮も違うし、会うのなんて合同授業のときぐらい。なぜかよく言われるが遠慮が過ぎるらしい私は彼程度の知り合いからのプレゼントは受け取りにくいと感じてしまう。

「うーん、じゃあ、プレゼントではないと思って軽い気持ちで受け取ってよ、いつものお礼さ」
「そういうもの? そんなにいつも何かしてた?」
「魔法薬学でどれほどお世話になってるか」

そう言って肩をすくめた。
おそらく“前”の私の文化なんだろう。身体、魂?のようなものだろう。そこに染みついた前の私の性格だ。素直に受け取るものなんだろう。うん。

「ありがとう、じゃあ受け取るよ。 でも残念だけど今年のクリスマス費用は使いきっちゃたんだよね。 だから申し訳ないけど今年はこれで」

そう言ってローブのポケットから飴を取り出す。カラフルな包装の飴をひと掴みしてセドリックのポケットにぶち込む。荷物を両手持ちした彼は抵抗できずに飴を受け取ることになった。

「なに入れたの?」
「飴。最近お気に入りなんだ。今はこれしか持ってない。フィフィ・フィズビーはあたりだけど他は全部はずれ」
「はずればっかりじゃないか」
「あたりばっかり食べちゃった」
「僕は掃除係かい?」
「そうなるね」

あはは、と笑った彼は懐が広すぎる。私ならあたりだけ抜いてはずれを口に入れさせる。

「…住所を教えてくれるかい?」
「もちろん、ありがとう。楽しみにしてるよセドリック。明日の魔法薬学の授業で渡すのでもいいかな?」
「大丈夫、お願いするよ」

じゃあ、明日。とわかれて私はスリザリンの寮へ向かった。



- 3 -
back