幸せな少女と不幸せな青年


「今日はありがとう、すごく楽しかったよ」

 そう言ってカノンは綺麗に微笑んだ。

「私もすごく楽しかったです! このぬいぐるみすっごく可愛くて……一生大切にします」

 西園寺はUFOキャッチャーで取ってもらった、真っ白なうさぎのぬいぐるみを胸に抱いて花のような笑みを浮かべる。普通に見れば可愛いだろうその笑顔も、カノンの心には響かない。

「そんなに喜んでもらえるなんて嬉しいな。こちらこそありがとう」
「……」
「くるみチャン?」
「っ! あ、な、なんでもないです……くしゅっ」
「大丈夫? 風邪引いたら大変だからこれ着てるといいよ」

 カノンは着ていたコートを西園寺にかけてやり、肩に手をまわして歩き出す。

「(肩に腕まわして何してるのオレ。ああもう仕草一つ一つが目障り。垂れ流しのオーラは気持ち悪いし)」

 肩にまわした手が疼く。
 「ついうっかり」を回避するために息を深く吐くカノンは、その行為が西園寺の勘違いに拍車をかけているとは知る由もない。

「(ゼロさんも緊張してるのかな? そうだよね、くるみと一緒にいられるんだもん緊張しないわけないよね。もう少しアピールすればゼロさんくるみのこと好きになってくれるかな)」
「(綱吉クンたち大丈夫かな。昨日までの情報から考えると、綱吉クンの処分はもうすぐ決まるはず。そうしたら計画を一段階進めて――誰だ?)」

 誰かに尾行つけられている。
 尾行者はカノンに興味がある女たちではない。だからといって念能力者でもないが、気配の殺し方がプロのそれだ。

「(狙いはオレ……ってことはボンゴレ関係者かな)」

 られていると悟られているくらいだから大したことないだろう。ここで探りをいれようものなら西園寺に勘づかれる可能性がある。今はまだ様子見でもいい。

「(くるみのあとをつけてくるなんて誰!? せっかくゼロさんといい雰囲気だっていうのにいい度胸してるじゃない!! 絶対許さないんだからッ!!)」

 纏う空気が変わったことで、西園寺も尾行されていることに気づいたようだ。意識はすっかり背後にむいている。すかさずカノンは西園寺を抱き寄せた。

「肩震えてるけど寒い? どこかでコート買う?」
「ぁ……さ、寒いとかじゃないんで大丈夫ですよ! さっきから私の心配ばかりしてるけど、私のせいで薄着のゼロさんのほうが心配」
「鍛えてるから代謝はいいほうなんだ。このくらいで風邪は引かないよ」
「でも風邪って結構怖いですし侮っちゃダメですよ」
「心配してくれてありがとう。でも本当に大丈夫だよ。もし風邪引いても看病してくれる子がいるからね」

 ぴたりと、西園寺の足が止まった。
 肩を抱いていたカノンもつられて足を止め、あとをつけている何者かも静止する。
 オレの命を狙っているわけではないのか? 自然な動作でショーウインドウのガラスを見るが、どこに身を潜ませているかわからない。つけられていることはわかっても、どこに隠れているか悟らせないあたりはそれなりに評価すべきだろう。
 ふと思い出したように西園寺の顔を覗き込む。見れば西園寺は悲しそうな表情をしていた。

「くる……」
「ゼロさんって彼女さんいるんですか?」
「へ?」

 突拍子もない質問に、思わず間抜けな声が出てしまった。
 今のひと言で西園寺の考えを理解したカノンの口角が僅かにあがる。しかしそれは一瞬で、カノンは西園寺の頬に手を添えた。

「何をどう解釈してそう思ったか知らないけど、彼女はいないよ」
「で、でも看病してくれる人がいるって」
「ああ、それか。彼女じゃなくて綱吉クンだよ、沢田綱吉。確か同じクラスだったよね?」
「っ!? ……はい……」

 西園寺の顔色があからさまに変わった。泣きそうな、恐怖しているような顔。怒りや憎しみの色を一瞬でも見せなかった西園寺に、カノンは拍手を送りたくなった。

「……顔色悪いね、どこか移動しようか?」
「あ、それならうちに来ませんか? ここの近くなんです。今迎え呼びますんで……よかったら来てくれませんか? ……もう少し、一緒にいたい」

 西園寺がカノンの腰に腕をまわし、潤ませた瞳で懇願する。

「せっかくのお誘いだけど、体調よくないようだから今日は遠慮しておくよ」
「嫌!! ……いや……もう少しだけでいいから……っ」

 ぐっと腰にまわった腕に力が入った。カノンはしかめそうになった顔を困惑に変えて考える素振りを見せる。
 自分の中で葛藤しているように見せたあと、西園寺の腕をそっと外しながら静かにうなずいた。

「…………わかった」

 安堵したような笑みに変えた西園寺は、カノンの気が変わらないうちにと自宅に迎えの連絡を入れた。






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