計らずも学園一の札付きとデート、しかもきちんと行先も決まっている水族館デートにまで発展していまいなまえの心臓は今にも張り裂けそうになっていた。
あの後連絡先を交換し、その次の日が土日であったためすぐに行こうという話になってしまった。
「はあ。」
なまえは短いため息を吐いた。今、なまえは一人、神代凌牙を待っている。
デートなどしたことがないが相手に失礼がないように薄っすら化粧をし色付きのリップクリームで唇を保湿した。慣れない化粧をしたせいで肌が敏感になり頬の上がすこしかゆい。優しく掻くとハイライトが爪の間に入り込みきらきらとした爪になった。
水族館までは少し遠い。モノレールか何かで行くのかと思ったが「迎えに行く」とのことだったので駅前で待っているのだ。
すると遠くからモーター音が聞こえてきた。だんだんと近づいてくる音にもしかして彼なのかと思うがまさかなと駅の中のカフェに視線をずらした。待ち合わせまで時間はあるがもう少し掛かりそうならカフェラテでも買おうと寄りかかっていた壁から離れた。
「悪い、遅れたか?」
目の前にバイクのような乗り物が止まり、ヘルメットを被った彼_凌牙がいた。見たことのない乗り物に驚きつつ、先端が尖っていて転んだら危なそう、となまえは思った。そんななまえは他所に凌牙はヘルメットを脱ぎ、降りた。
「ううん、」
凌牙の申し訳なさそうな眉の下がった顔になまえは学園とのギャップを感じ、言葉が詰まった。私服の姿も初めて見た。深い紫色のジャケットで乗り物ともとても合っている。カッコいい、と思う。頭の中であの女子たちがニヤニヤとした顔で現れ、頭を軽く振って消した。
「悪いな、いろいろあって。」
「いろいろ?」
バツが悪そうに視線を下にしている。一応まだお昼前であるが何か用事でもあったのか、となまえは「大丈夫?」と聞いた。
「ああ、大丈夫だ。水族館行くか。」
脇に抱えていたヘルメットをなまえへ渡す。まさかこの乗り物で行くのかとすこし冷や汗が出た。
「わ、わたし乗ったこと、なくって。」
戸惑うなまえに凌牙は手招きして後ろに乗るところと手を掴むところを教える。意外と人が二人乗っても平気な作りをしていることに驚きながら中を見つめた。不安な表情を浮かべているが「乗れよ」と言われてしまい、先に凌牙が颯爽と乗った。その背中に触れないように気をつけ、手をかけると力の入れ方がわからず凌牙に触れてしまった。
「あ、ごめ、」
「俺に捕まってもいいぜ。」
さらっと言われた言葉にぼんっと音を立てて顔が赤くなった。しかし凌牙はそんなことは気にも留めていないのか肩を少しなまえへ差し出し「ん」と言った。捕まれよ、と言われている気もしておずおずとなまえは凌牙の肩に手をかける。重くないかな、と心配になったが何事もないようにしている凌牙に安心した。
「乗れたか?」
「な、んとか。」
凌牙に言われた通りに乗ってみると案外安定感がある。ヘルメットの重さで首が座らない赤子のようにぐでんとしたがそれを凌牙は笑って「行くぜ」と一言かけて出発をした。笑われたことになまえの体温は急激に上がるが、いつものような嫌味な嗤いではないことに気づくと心もヘルメットも軽くなった気がした。
上半身が外に出ているためよく風が当たる。最初は慣れない後部座席に戸惑っていたものの数分乗ってしまえば恐怖も消えた。ヘルメットをお互いにかぶっているので顔は見えない。しかしたまに気をかけているのか後ろを肩越しに見て、発進する。勝手に不良の乗りこなす乗り物はすべて運転が荒いと思っていた。そんなことは凌牙には関係ないらしい。
周りの景色を見る余裕ができたころに「平気か?」と信号で止まった際に聞かれた。
「平気!」
なまえが答える間もなく信号が青に変わり、発進した。頷かれたような気がしたが聞こえたか定かではない。言い直そうにも運転している人に話しかけるのはどうかと口を開きかけたがすぐに閉じた。そしてまた景色を眺めることに集中する。ハートランドシティではあまり見かけなくなった電柱をちらほらと見かけるようになった。心なしか体に当たる風も冷たい。ああ海が近いんだなあ、となまえは感じそっと目を閉じ大海原へ思いをはせた。